少年少女のパワーローダー戦記

MrR

放浪編

逃避行

 Side 木里 翔太郎


 俺達は戦った。


 敵のエースとも戦ったし、地上を進む陸上戦艦の大部隊とも戦った。


 だが待ち受けていた結末は日本の核兵器使用によるヴァイスハイト帝国との休戦条約だった。


 同時に日本政府の連中は俺達を殺しに来た。ご丁寧に反逆者扱いにしてだ。


 もう正しいもクソもない。


 誰が敵で誰が味方かなど分からなかった。


 殺して殺して殺しまくった。


 ただ生き延びたかった。


 こんな馬鹿みたいな理由で死にたくなかった。


 俺達の戦いはなんだったんだ。


 そもそもどうして俺達が戦わなきゃいけなかった?


 俺達は生き抜くために戦って戦って逃避行を続け、そして―― 

 


  

 日本政府の核兵器使用によるヴァイスハイト帝国との休戦条約。

 

 日本政府が何処から核兵器を手に入れて使用に踏み切ったかは分からない。


だが自分達の身の安全が保証出来れば、平気で売国したり、少年少女を最前線送りなどもやらかす連中だ。


核兵器を使用した理由もくだらない理由だろう。


ひとまず戦争はストップしたが、俺達は今日も自衛隊のクズ共と廃墟と化した町で銃撃戦を繰り広げていた。


 自衛隊のパワーローダーは暗い緑色の零戦二型。

 肩のシールドや背中のバインダーが特徴の高機動型パワーローダーだ。


 同じく暗い緑色の富嶽。

 背中の二門の大砲が特徴的なパワーローダーまでいる。


 自分は漆黒のアインブラッド・レイヴン。

 鬼のような面、二本角の二つ目。

 手にはビームライフル。

 二丁拳銃のホルスター。

 背中の大きなレールガン搭載型ウイングバインダー。

 腰に下げた二振りのブレード。

 俺の相棒だ。

 

 アインブラッドと言うのはまあリアルロボットアニメに出て来る特別な機体の総称みたいなもんだと思ってくれればいい。


 自分が使うやつ以外にもアインブラッド・ウイングとかフルアーマーアインブラッドなども存在している。


 あと、メカ少女のようなネイキット・パワーローダーなる物も保有している。


 戦時中は扱いは散々だったのに、最強部隊などと持て囃された事もある。


 俺なんか翼の死神とか厨二病的な二つ名で呼ばれてしまう始末だった。


 とにもかくも仕事をしなければならない。



 Side 追跡部隊の隊長


(クソ!? なにがガキの始末だ!? クソッタレな上層部共め!!)


 相手はパワーローダーの性能が良いだけの子供連中だと聞いていた。

 戦時中の最強部隊で敵のエースや大部隊相手との戦いを潜り抜け、陸上戦艦の艦隊すら撃破したと言う。


 よくあるプロパガンダだと思っていた。


 だとしても自分達が手も足も出せずに葬り去れる力はあるらしい。

 パワーローダーの性能が違いすぎるのもあるが戦い慣れている。


 戦闘ヘリも敵のビーム兵器やレールガンで撃ち落とされた。 

 

 戦車もである。


今の時代はパワーローダーが戦場の主役であると言わんばかりの暴れっぷりだ。


 そして俺達大人達はそれに乗り遅れていた事を実感した。


『散開しろ!? 固まっていたらやられる!!』


『黒いパワーローダーがこっちに!?』


『なんなんだあの機動は!?』  


『こっちはピンクの悪魔が来たぞ!!』


『青の翼付きが――』


(通信が入り乱れてやがる!!)


 味方は混乱状態。

 連携どころかまともに戦えているのか怪しい状況だ。

 

『こちら――救援部隊、救助を求む!!』


「何が救援部隊だ」


 案の場、近くに救援部隊と言う名の俺達の監視部隊が潜んでいたようだ。

 俺はこの戦場から離脱する事を考えた。

 もうこんな戦いこりごりだ。


 やってられっか。

  


Side 木里 翔太郎



『どうにか退けたな』


「そうね」


 ピンク色の小学生ぐらいの背丈で長い茶髪のメカ娘――手毬 サエ。

 元高校の女学生が傍にやってくる。

 詳しい間柄の説明は省くが腐れ縁の幼馴染みと言って良い。


 出で立ちはヘッドギアにスク水型のスーツに両手、両肩、両足、腰回りのピンクの装甲。


 背中の二門のキャノン砲が搭載されたフライトユニット。

 腰には二振りの剣。

 手にはビームライフルとガトリングシールド。


 パワーローダーと体格が合わない人間のためにバリアシステムを搭載した変則的なパワーローダー。


 正式名称ネイキッド・パワーローダーだ。


 名前は桜花。


 統合兵装ユニットを搭載している。


「合流地点までもう少しだけど本当に行くの?」


『まあ現状は行く宛もないしな』


「それもそうね――」


 と会話して俺達は倒した自衛隊から使える装備は回収してこの場を離れた。

 

俺達はキャラバンとなって移動している。


 キャンピングカー代わりの軍用輸送トラックが連なり、今は小さな町の駅前の広間で停車している。


 積み荷はパワーローダーは勿論、生活必需品や物資を乗せての行動だ。


 あの地獄から生き延びた生き残り達。


 その中でも戦えるのは少ない。


 俺、木里 翔太郎。


 手毬 サエ。

 

 牛島 ミク。


 和泉 ツカサ

 

 たったの四人だ。

 

 俺とサエはともかく、牛島 ミク――ボブカットでポッチャリしてメガネをかけていた作家志望の女の子は過酷な状況に身を置いていた時期が長かったせいかすっかり痩せてしまった。


 和泉 ツカサ先生――元プロラノベ作家も、嘗ての生活を恋しく感じているようだ。


 他にも相川 タツヤがいたが家族や妹が心配で俺達から抜けた。


 無事に再会できてると良いんだが。


 それはそうと合流地点。

 嘗て廃棄された自衛隊の軍事基地。

 そこで合流するとの事だ。


 メッセンジャーは自分達のパワーローダーを開発したプレラーティ博士。

 見かけはまだ中学生ぐらいの少女。

 長い金髪で目鼻立ち整っていて、年齢の割りに偉そうな態度で接してくる。


 彼女がいなければ日本は早々に滅んでいたし、彼女がいなければ自分達はパワーローダーを身に纏って戦う事もなかっただろう。


 そして彼女もまた日本政府に裏切られた。


 てっきり殺されたかと思ったがしぶとく生きていたようだ。



 すっかり夜になり、皆と少し離れた場所で星を見ていた。


 そして何処からともなく手毬がやってくる。


「正直言うと私は不安よ。木里」


「俺もだ手毬――だけど」


「進むしかないのよね」


「ああ・・・・・・」


 死に方は選びたい。

 少なくともクソッタレな連中の思惑の中で死んでいくのはゴメンだった。

 

「今でも夢みたい。いい夢なのか、悪い夢なのか分からないけど」


「確かにそれは言えてる。正直生きてるだけでも奇跡みたいなもんだしな」


「そうね。本当に奇跡だわ」


 最新型のパワーローダーがあったとはいえ、ヴァイスハイト帝国との戦いや政府の裏切りを乗り越えられたのは奇跡と言っていいだろう。


「牛島さんは痩せたし、和泉先生もなんだかんだ言いながら生き延びたし、相川は妹さんとちゃんと再開出来てるといいんだが」


 心配事が多すぎる。


「・・・・・・相川に関しては幸運を祈るしかないわね」


 俺は「そうだな」と返して「なあ――手毬」と呼びかける。


「なに?」


「まだ――俺達の戦争、終わってないよな」


 手毬にそう言った。


「そうね、今はまだ休戦状態だけど。核兵器を使ったんだもん。ヴァイスハイト帝国は必ず報復するわ」


「束の間の平和か」


「正直この国がどうなろうがしったこっちゃないけど、それってこの国に生きてる人達が全員どうなってもいいってワケじゃないしね――」


「戦う相手をちゃんと見定めないとな。もう本当は戦いたくないんだけど・・・・・・殺しに来る以上はそれ相応の対応をしないといけないのがな」


 この国は滅亡寸前だ。

 滅亡すると言う事は大勢の日本人が死ぬと言う事なのだ。


 だが俺達の命もタダではないし、皆これまでの事で精神をすり減らしている。

 このキャラバンにも、もう戦いたくないと言う人間はいるだろう。


「そうね・・・・・・その辺りも含めて皆とキッチリ話し合いましょう」


 手毬の意見に「そうだな」と同意した。 



 昔話をしよう。


 戦争突入前の話だ。


 日本政府は当初、戦争回避のために躍起になっていた。


 軍事力増強しようにも世紀単位に渡る平和思想が邪魔をして軍事力増強が上手く行かなかった。


 またヴァイスハイト帝国の兵器の象徴である陸上戦艦とパワーローダーは核融合炉搭載が普通であり、それに対抗するための代替え動力がなかったのもある。


 冷静に考えれば此方も核融合炉搭載型でなければいけないのだが、日本は核に関して敏感なお国柄だ。


 また軍備増強すれば戦争になると思ったのだろう。


 結果、ロクに軍備増強もせず、日本特有の時代遅れの兵器のまま戦争に突入。


 そして日本の防衛組織である自衛隊はボロ負けした。


もう虐殺になるぐらいの負けっぷりだったらしい。


 だが日本政府は極秘裏にパワーローダーを開発していて、それを使って俺達が初戦闘で戦果を挙げてしまったのが不幸のはじまりだ。


 それ幸いにと日本政府は俺達含めた少年少女を実質徴兵扱いにして前線送りにする事を決めた。


 ご丁寧に監視役もつけてだ。


 配属された基地は基地と言うより刑務所に近かった。


 だが少年少女を前線送りにすると言う事は前線勤務になると言う事であり、監視役の大人達も「敵に殺される可能性が高い」。


また「自分達もろとも政府に消されるのではないか?」、「子供達に殺されるではないのか?」とか思っていたのか監視役の大人達から「体調不良者」が相次いだ。


彼達も被害者ではあるのだ。


そこから先は知っての通り、俺達の頑張りを無にする核兵器の使用に踏み切り、さらには政府は俺達を殺そうと躍起になってる。


そして国家反逆罪となった俺達は現在逃避行の真っ只中だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る