「こんにちは、ごめんください」

 誰かが訪ねてきたようだ。母さんはどこに行ったんだ。疾風は面倒くさそうに玄関のほうに向かう。

「こんにちは」玄関の扉を開けると、見慣れぬ制服を着た女子がたっている。

「何ですか」

「お母さんはいないかな。疾風君だよね」

 翼を見て疾風は、子どもの頃見た邑子を思い浮かべた。

「邑子さんに頼まれてきたの」

「あぁ、どうぞ」疾風は翼を居間に通す。

「受験なんでしょ。ゴメンね、邪魔しちゃって」

「そろそろ帰ってくると思います」

 同級生とは全然違うと疾風は思った。

「それじゃ、少し待たせてもらうね」

「疾風君は勉強に戻っていいよ」

「勉強してたわけじゃないから」

 疾風は頭をかきながら台所に向かう。

「おかまいなく」

 翼の声に疾風の心臓が震える。疾風はやかんに水を入れてガスをつけた。

「お姉さん高校生」

「ごめんなさい。あたし、自分の名前言ってなかった」翼が疾風を見て笑う。

「翼って言うの。高校二年」

「疾風君、高校はどこを受験するの」

「まだ決まってなくて」

「また引っ越すかもしれないし」

「邑子ねえちゃんとは友達なの」

「パートナーかな。仕事上の」

「仕事?お姉さん仕事してるの」

 玄関が開いて恵子が帰ってくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る