07 過去と始まり③

〈爆破予告にて指定されて場所は全部で3ヶ所。


亀山町かめやまちょう ランドタワー”、“天馬町てんまちょう センターホテル”、そして“有兎楽町ゆうらくまち 合楽あいらビルディング”!


そして今しがた、ソサエティと名乗る奴らがこの反抗声明が本物だと分からせる為、天馬町のセンターホテルを爆破した!〉


 本当に爆破を起こしただと⁉︎

 イカれてやがる。


「センターホテルなんて一体何人の人達が……」


〈爆破予告の時間は15:00。よって、周辺にいる警察官全員に告ぐ!

直ちに残るランドタワーと合楽ビルディングに向かい、速やかに建物内と周辺にいる市民達を避難させるんだ! 現場に向かえる者は直ちに向かってくれ!〉


 今は14:00過ぎ……やばい。もう1時間もないじゃねぇか。


「先輩、俺このまま合楽ビルディング向かいます! 先輩はこの窃盗犯を署まで連行して下さい!頼みます!」

「おっ、おい黒野! 気をつけろよ! 俺も直ぐに向かう!」

「了解」


 俺は先輩に告げ、急いで現場へ向かって走り出した。


 それにしても、爆弾テロを本当に実行する奴らがいるとはな。俺が警察になってから何度かそういうのはあったが、結局全部悪戯だった。爆弾テロなんて猟奇的過ぎるが、それと同時に知能犯でもある可能性が高い。


 爆弾なんてそもそも入手困難。自ら作る奴もいるが、当たり前に知識や経験が必要だ。しかも実際に爆破したという事は、建物にいる一般人や警備員を掻い潜って爆弾を仕掛けたって事。既に俺達警察を含め、多くの人間の目を欺いている計画的犯行だ。素人じゃねぇ。


 先輩と2人で連行するよりも、別れて行動した方が絶対いいだろう。先輩には悪いが俺が走った方が早いし。それに、ここからなら街中の合楽ビルディングは、裏道突っ走れば最短距離で着く。下手に車で行くより確実に早い。


 しかも何故かは分からないが、一刻も早く自分が行った方がいい。そう思ったんだ。


 ──ほら。

 そんな事言ってるうちに着いたぜ。合楽ビルディング。


「ハァ……ハァ……まだ他の警官達は着いてないのか?」


 この近くにも交番がある。無線を聞いたなら直ぐ来るだろう。まぁそうじゃなくても大勢向かってるかどの道。


 兎も角、最優先は皆を避難させる事。急がないとやべぇな。


「マジでこんなとこ爆破する気なのかよ」


 平日の日中とは言え、合楽ビルディングは街中で駅も近い。普通に人通りが多いぞ。


 楽しそうに買い物をしている人達。ご飯を食べている人達。スーツ姿で仕事中の人達。荷物を運んでいる業者の人達。


 あまりに自然な日常の光景に、自分が何をしようとしているのか一瞬分からなくなる。


 よし。取り敢えず騒ぎにならない様に先ずはビルの人達を外に出さないと。俺はビルの守衛さん達に事情を話し、速やかに避難を促してもらった。そうこうしていると、外には次々に警官達やパトカーが集まってきていた。


 守衛さんに話した後、俺もそのままビルに入り、パニックにならない様皆を誘導していた。


「14:31……何とか間に合いそうだな。外も避難が済んでいるみたいだし」


 ――プルルルルッ……プルルルルッ……。

 ポケットに入っていた携帯が鳴った。先輩からだ。


「もしもし」

「お、黒野。お前どこにいるんだ?」

「ビルの中です。今1番上の階にいるんですけど、もうここの人達で最後ですね」

「分かった。ご苦労だったな。さっき爆破されたセンターホテルだけどな、何かでここ2日間“休み”だったらしく、幸いにも人がいなかったそうだ。って言っても、爆破の残骸が辺りに散らばって怪我人が何人か出た様だが、命に別状はないらしい。ここの外も無事に避難完了して緊急配備を引いてるから一先ず安心だ。お前も気をつけて残りの人達を避難させてくれ」

「了解。ありがとうございます」


 良かった。センターホテルも外も何とか無事みたいだ。それにしても、センターホテルが休みだったなんて偶然か? まぁ今はそれより一刻も早くここにいる人達を避難させないッ……『──ビッー! ビッー! ビッー!ビッー!……ガチャン!』


 突如ビル全体に警報音が鳴り響いた。


「お、おい、どうなっているんだ⁉︎ 扉が開かないぞ!」

「何してるのよ。早く避難しなくちゃ」

「急に鍵が掛かって開かないんだよ!」


 次に聞こえてきたのは、避難しようとしていた人達の話し声だ。

 やっぱり気のせいじゃなかったか。今の警報音の最後に聞こえた鍵の掛かる音。


「すいません。ちょっといいですか」


 ガキじゃないんだ。しかもこんな状況でふざけてる場合でもねぇ。幾ら焦ってパニックになっても、大の大人が鍵を開けられない筈がないだろ。


 俺はそんなこと百も承知だった。でも一応念の為と扉を確かめたが、やっぱり開かなかった。そりゃそうか。


 ちくしょう……。しかもこんな時に限って“嫌な予感”がしちまった。


 これは昔からだ。

 昔から俺は何故だか“直感”がよく当たる。


 勿論、アニメや漫画の主人公みたいな特殊能力じゃないから、外れる事も普通にある。だが他の人より当たるのも事実だ。2分の1の確率は大体当たってきた。


 それが良いか悪いかは時によるけど、それでも警察になってからは意外と役に立つ事が多かった。犯人確保の時とかは尚更。

 でも、今のは多分悪い方。何となく嫌な感じがした。


「刑事さん、どうですか?」

「いや。やっぱり開かないですね。この階に他の出入口ありませんか?」

「そういえば裏口に非常階段なかったかな確か」

「僕が確認してきますので皆さん待っていて下さい」


 俺はそう声を掛け裏口が開いているかどうか確認しに行くが、恐らく開いてないだろうな。


 ──ガチャ、ガチャ!

 ほらやっぱり。案の定鍵は閉まっていた。

 さっき表の入り口から見えたエレベーターもランプが点いていなかったからまさかと思ったが。どうやら普通に電気は通っているみたいだ。コレが偶然じゃないとすれば、“逃げ道”を封じられた。

 

 残すは窓からの非常用出入口だが――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る