第16話 一つの可能性

 瀬凪が夕食の後片付けをしている中、私は一人、リビングで思考の海に漕ぎ出した。


 私達は恋愛感情抜きで結婚した。


 その時の決め事は、全て結婚誓約書としてまとめ、お互いに合意の上、署名・捺印を行った。


 その一つに「恋愛自由」というものがある。外に恋人を作ってもお互いに文句を言ってはいけないことになっているし、もしその人と結婚したいと思ったら、もう片方は黙って身を引く、つまり、離婚することにもなっている。


 であれば、お互いの恋愛事情は知っておいた方が良いのではないだろうか。離婚となればそれなりに生活に影響もある。ある日突然離婚を突きつけられるよりも、状況を把握しておけば心積もりもできる。


 ではなぜ瀬凪はをしてほしくないというのか。


 恋愛の話が苦手あるいは嫌いという人が一定数いることは理解している。


 そもそも全く興味がないとか、あるいはコンプレックスやトラウマがあるとか、理由はいくつか考えられる。


 私はなんとなく、『結婚は無理だと思っていた』という発言から、瀬名には後者のような理由があるのかと思っていた。


 そう思えばこそ、本人に直接確かめるのは躊躇われたので、瀬凪の言う『秘密』には言及しないできた。


 でも、瀬凪は言った。


 『誰かが朱侑のことを好きとか嫌いとか、そう言う話だ』と。


 瀬凪が気にしているのが〝恋愛〟ではなく〝古神子朱侑〟だとしたら。


 そうであるならば、私は瀬凪の真意を確かめなければならない。




 そうしてようやく、話は冒頭に遡るのである。

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