夫が私(妻)を愛してしまったので離婚させていただきます

神原依麻

プロローグ

第1話 お話があります

「ちょっと話があるんだけど」


 そうやって、夕食の後片付けを終えた夫に声をかける。私としてはなるべくいつもの調子で声をかけたつもりだけれど、夫は少し警戒した様子を見せた。私の些細な声の違いに気付いたのだとしたら、より今からかける疑惑が深まるというものだ。


 夫は変わらず警戒した様子を見せながらも、私が待つダイニングテーブルへとやってきて、空いている席に腰かける。


「話……?」


 私の顔色を伺うようなその仕草は、学生時代に家庭教師のバイトをしていた時、宿題を忘れた生徒が見せた様によく似ていた。


「……単刀直入に言うけど」


 私はそう前置きして、些細な表情の変化も見逃すまいと夫の目を見つめた。


「あなた、私に恋してるでしょ」


「へぁ!?」


 すると夫は奇妙な声をあげたかと思うと、みるみる顔を赤くさせた。


「恋、してるでしょ」


 念を押す私に、夫はどもりながらもなんとか言葉を発する。


「な、何言って、な、なに、そう、何急に」


 目が泳いでいる夫に、私はさらに畳み掛ける。


「それは結婚誓約書第14条に違反するよね」


 そう指摘すると、今度はみるみる青くなる。信号機もビックリの早変わりだ。


「つまり、私はあなたに離婚を要求できることになります」


 そうしてさらに私が発した言葉によって、夫が息を呑んだことを認識した。




 明日は土曜日。夫も私もこれといった予定はない。

 つまり、今夜はじっくり話し合いに集中できるというわけだ。

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