九月二十九日

十月の風が吹こうかという今日、【道】の浜で久しぶりに海水に浸かってみた。浸かったといっても足だけなのだが、それでも水の感触は心地よかった。

「冷たいなー」

「こんなに冷たかったっけ?」

長哉が海水を蹴ると、砂の混じった水飛沫があがる。以前よりも飛ばない水飛沫は海面に波紋を作りすぐに消えて見えなくなった。

「もう、走れないんだな」

俺がしみじみと呟けば、長哉が困ったような顔をして笑った。

「まだ、走りたかったんだ」


その言葉に返事をする人はいない。

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