第28話 えへへ♪ これ、やってみたかったんです♡


 【契約】が完了したので早速、魔法を発動させる。

 ずは治癒ちゆの魔法だ。俺と菊花だりあが手をつなぐ。


 そして、菊花が集中すると一瞬にして、怪我が治った。


すごいです!」


 と菊花。魔法を使った本人が一番、おどろいている。

 桜花ちえりさんにかれた傷が綺麗きれいなおっていた。


「これなら、神月かみつきさんの【神気しんき】も如何どうにか出来るのかな?」


 俺の期待を込めた眼差しに、


流石さすがにそこまでは……」


 そう言って、菊花は視線をらした。


(やはり、難しいらしい……)


 ――いや、俺が気落ちしてどうする!


「ごめんね、神月さん」


 俺が謝ると、


「いいんです……」


 と神月さん。続けて、


「それより、魔法を使う度に手をつなぐ必要があるんですか?」


 うつろな瞳でいてくる。

 いつものパターンなら――ひぃっ!――と悲鳴が聞こえるはずなのだけれど、


『ひぃっ!』


 そう言って逃げ出したのは桜花さんだけだった。


「あれ?」


 と菊花は首をかしげる。


「どうやら【契約】した事で……」


 お主の特性を多少、引き継いだようじゃな――と朔姫。

 菊花も『神狩かみがり』になったという事だろうか?


流石さすがにそこまでではない……」


 じゃが――朔姫は【竜】ドラゴンを見た。


「これで、こやつを使役する事は出来るようになったはずじゃ……」


 にんまりと笑う。どうやら、ここまでは計算していたらしい。


「ありがとう、朔姫」


 俺はかがんで、彼女の頭をでると、


「そうであろう! われは出来る女じゃ!」


 そう言って、抱き付いてきた。

 俺はそのまま、彼女をきかかえる。


 なんだかんだで、朔姫はいつも、俺達の事を思ってくれているようだ。

 このくらい、いいだろう。しかし――


「あーっ!」「は、離れてください!」


 と神月さんと菊花。


(はて? どうして菊花まで……)


「か、彼女として、次はわた……私の番です!」


 神月さんはそう言って、自分の胸に手を置きつつ、顔を真っ赤にする。

 この場合、めると恥ずかしさで卒倒しそうだ。


「い、今はセンパイの所有者はあたしです。あたしをめるべきです!」


 と菊花。こんな性格だっただろうか?

 何故なぜか胸元のボタンを外す。


 つい視線が行ってしまうのは、男としての本能なので許して欲しい。


「べーっ! 嫌なのじゃ……」


 とは朔姫。俺をめる腕に力を入れる。

 骨がきしむ。いまぐ、めて欲しい。


 一方で――バチバチ!――と火花が散っているような気がする。

 なにやら、三つ巴の戦いが始まってしまったようだ。


 状況が余計にややこしくなっている。


 ――どうやら、俺は選択肢を間違えたらしい。



    ◇    ◇    ◇



 あの後、俺と【契約】した事で【魔力】が飛躍的に向上した菊花。

 彼女は【竜】ドラゴンと『使い魔』の【契約】を行った。


 【竜】ドラゴンとしても『消える』か『使い魔』になるかの二択だったので、選択の余地がなかったのだろう。


 また、菊花の魔法により、桜花さんの姿も元に戻す事が出来た。


 彼女の【魔力】が上がる――という満月の夜に行ったのだけれど、上手くいったようだ。


 ただ時折、耳と尻尾が出てしまうらしい。


(ちょっと、カワイイ……)


 二学期から一年上の先輩として復学するそうだ。

 因みに、俺と【契約】した事で菊花に掛かっていた【呪い】は解呪されていた。


 問題があるとすれば、菊花が寮に引っ越してきた事だ。


 彼女の理屈では――【魔女】と【杖】は一緒に居た方がいいんです♡――との事だったが、


「セーンパイっ♡ お礼です」


 そう言って、俺の入浴中にお風呂に入ってくるのはどうかと思う。

 当然、彼女は水着姿なのだけれど、


「お背中、流しますね♡」


 となにやら楽しそうだ。

 その必要はないと断ると、


「今の状況、恋仲こいなかセンパイと神月センパイに話すとどうなりますかね?」


 とおどしてくる。こんな性格だっただろうか?


「うふふっ♪ 冗談ですよ~」


 じゃあ、あたしも彼女にしてください♪――などと言って来る。

 今、断ると悲鳴の一つでも上げられそうだ。


「か、考えておくよ……」


 俺はタオルで下半身を隠すと、バスチェアに座った。

 ここは大人しくしたがおう。


 あまり見ないようにしたが、それはそれでなにをされるか分からない。

 青と白を基調としたビキニで、朔姫ほどではないが、大きな胸が強調されている。


 フリルが付いていて、可愛らしさをアピールしていた。

 発育がいい――とは聞いていたけれど、目のやり場に困る。


「セ、センパイなら……好きなだけ、み、見てもいいですよ♡」


 と菊花。口ではそう言っているけれど、その口調は恥ずかしそうだ。

 無理をしているのだろう。


「今度、海に行こうか?」


 俺はそう言ってみる。


「デートですか?」


 ゴシゴシ♪――と俺の背中をこすりながら、菊花は質問した。


「いや、寮の皆でだけど……」


 夏休みはバイトを入れる予定なので、のんびりする余裕はなさそうだ。

 その前に皆で海に行くのは『悪い案ではない』と思った。


 菊花は溜息をくと、


「ごめんなさい……」


 そう言って謝る。

 謝るのは、ハッキリと答えを出さない俺の方だ。


「あたし、ちょっとあせっていました」


 中学生じゃ、子供ですよね――と菊花は答える。

 それは神月さんと朔姫が『大人だ』という事だろうか?


 正直、まだまだ子供だろう。


むしろ、菊花の方が大人っぽい気がする……)


「でもっ! あたし、負けませんから……」


 菊花は俺の背中を流すとき付いてきた。


「えへへ♪ これ、やってみたかったんです♡」


 やっぱり、男の人の背中は大きいですね!――と無邪気にはしゃぐ。

 朔姫の影響なのだろうけど、今は不味まずい。


(胸が当たっている……)


 俺は前屈みになり、動くに動けなくなった。

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