第4話 「命の恩人」


立ち上がろうと苦戦していると、目の前で驚いて固まっていた女の子が近寄って来たと思えば、


『なにを…』


グイッと体を支えて来たと思えばそのまま背負せお

い始めた。


女の子は自分の鞄と紅の鞄を持ち直し、階段の上から聞こえる声に気づいたのか急ぎ足で進む。


どこへ行くのか、この子は誰なのか…


気になる事は沢山あるはずなのに、目を開けていられない。


私はそのまま気を失ってしまった。



お…て…

…きて…


声が…聞こえる気がする…


[起きて]

[紅、起きて]


呼び掛けてくる声の正体に気付いた瞬間飛び起きた。


『っっ!!』


どれくらい気を失ってた?ここは?

状況が理解できない。

辺りを見回してみても自分が何処にいるか理解不能だ。

何処かの部屋みたいだが生活感がない。

生活の場というよりは廃墟の一室のような所で、寝かされてたベッドから起き上がり窓から外を見ると


『廃工場?』


周りは木に囲まれているが、建物や見える範囲のもので判断する。


さて、どうしたものかと考えを巡らせていると誰かの足音の存在に気づいた。

コツコツとドアの外から聞こえる足音が近づいてくる。

誰が来るのかと身構えていると…


「……あっ…」


キィーっとドアが開いて静かに顔を覗かせた子は、目が合うと戸惑ったように固まってしまった。


見覚えがあるように思ったが、さっき会った女の子だ。


その子は特に何をするわけでもなく、頭から足までジーッと見てきた後、


「…血は…止まった…?」

『え?』


そう言われ右腕を見ると丁寧に治療してあった。


『止まってる』

「……気分は?」


今度は体調について、


『特にない、けど、』

「そう…」


それだけ確認して満足したのか、


「か…カバンは、そこ。…それだけ」


そう言ってドアを閉めて行ってしまった。


『…えっ?ちょっ!!?』


まさかそのまま帰っていくとは思わず、慌てて鞄を引っ掴んで後を追う。

足音を追いかけて外へ出ると、さっきの子はもう先の方にある曲がり角へ差し掛かってた。

まだ何も聞いてないのだ、見失うわけにはいかない。

慌てて自分もそこへ向かうが、


『いない…』


もうそこには誰も居なかった。

曲がった先は一本道で隠れられるような場所は一つもない。


走って行ったのだろうか?


とりあえず進んで一本道を抜けてみれば、そこは自分がよく知る道だった。

辺りを見回しても探している子は見当たらない。

ここで見失ってしまったなら今はもう簡単に見つける事はできないだろう。


『疲れたし、今日はもう帰るか』


あの女の子の事を風に聞いても笑うだけ。

今日はもう諦めることにして、2人組に会わないように警戒しながら家に帰ってそのまま眠りについた。





ピンポーン


『んー…』


ピンポーン、ピンポーン


AM9:00


突然のチャイム音で起こされた。

モゾモゾと時計を確認している間にも鳴り続けるチャイム。

これだけしつこくする奴の顔を思い浮かべ渋々しぶしぶと玄関へ。


『うるさいよ琴』


ガチャっとドアを開け目の前の人物に目を向ける。


寝坊助ねぼすけな紅が悪いんだよぉ」


さも当たり前だとでも言う表情の琴と、その後ろには美沙。


『で?今日は何?』

「せっかくの土曜日!美沙と紅と私の3人で遊ぼ」


まぁ、家に来た時点でそうだろうなとは思ったよ。










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