15_暗闇の真実

 光の道が急に消えて、黒瀬たちは、真っ暗な空間に飲み込まれていく。頭から落下し、風が頭部にあたりびゅうびゅうと吹き付ける音がしている。


 空気は存在するが、落下するに連れて薄くなっていく。深い呼吸をして、なんとか体内に酸素を送り続けなければならない。いつか、周りの空気もなくなってしまうかもしれない。


 真っ暗で何も見えない。


 光がないから、朱音の姿が見えないだけじゃない。


 自分の身体すらも見ることができない。


 自分が目をつぶているのか、それとも開けているのか分からない。


 周りが闇に包まれて、頭の中まで闇に染まって精神がおかしくなってしまいそうだ。


 黒瀬は、朱音の存在を確かめるため、彼女に話しかける。


「朱音、そこにいるか!」


「……」


 彼女の返事がなかなか返ってこない。沈黙が続く。


 朱音、君はこの暗闇の中、どこかに消えてしまったのか……。


 黒瀬は、そばにいた彼女がどこか手の届かないところまで行ってしまったのではないかと思い強い孤独感にさいなまれる。


 そして、彼は暗闇に飲み込まれて、溶け込んでいく感覚に襲われた。自分という存在を感じられなくなっていく。


 まずい。飲まれる。


「黒瀬くん、意識をはっきり持って!私は、ここにいる」


 黒瀬の不安をかき消すように紅園の声が聞こえた。その瞬間、黒瀬は、彼女の手のぬくもりを感じる。


「朱音、すぐそこにいるのか!」


 真っ暗で、何も見えなくても、彼女が握ってくれている手の温もりで、黒瀬は彼女の存在を感じることができた。


 闇に飲まれかけていた黒瀬は、彼女に救われた。


「ええ、私は、そばにいるわ。こんなところで簡単に、終わったりできないもの」


 暗闇から、いつもと変わらぬ紅園の声がした。そんな彼女の声に、黒瀬は安心する。


「良かったよ!さすが、朱音だ!この状況、どうしよう。僕たちは、このまま落下するしかないのかな」


「光の道が急に、崩壊したのは何故か考えてたの。そしたら、私の中で一つの可能性が浮かんだわ」

 

「何なんだ。その可能性というのは?教えてくれないか」


「私は、気配を感じ取ることが得意なの。光の道を歩いている時から、妙な気配がつきまとっていたの。その気配は、まるで……」


 グゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


 紅園が話している最中、周囲の空間が激しく蠢く音がした。


 何だ、何が起ころうとしている。


 黒瀬は辺りの暗闇を見渡すと、異変が起こった。


 暗闇から、光を放つ複数の巨大な目玉が周囲の至るところに現れる。あまりに異様で不気味な光景だ。二人を観察するように、目玉は二人に視線を向けている。


「僕たちのことを見ている……」


 黒瀬は、突如、現れた正体不明の物体に、困惑こんわくする。紅園は、その目玉を見て何かを確信し、言った。


「やっぱり、そうね。私達は、巨大なの中にいる」


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