04_異世界への扉
黒瀬は、謎の声の返答を待つ。緊張した
「シェイドとでも、呼んでくれ。いずれ、私が何者であるかは分かるだろう。アンブラについては、その女性が知っているはずだ」
シェイドは、名前を名乗っただけで、自分がどういう人物で、黒瀬の精神世界に現れたのかまでは明かすことはなかった。
何故、僕に話しかける謎の声の主は正体を隠し続けるのだろう。何か明かしてはいけない理由でもあるのか……。
「何があったの、私が気を失っている間に……」
意識を失っていた紅園が、目を覚まし黒瀬に話しかける。彼女は、近くに空いた見覚えのない弾痕を見て不思議がっていた。
「朱音、目を覚ましたのか。ちょっと、色々あったんだよ」
「聞かせて。何があったのか。それに、あなたのことについても聞かせてほしい」
「ああ、僕も朱音について、聞きたいことがあるんだ」
日が沈み、辺りがすっかり暗くなってきたので、焚き火を焚いて座りながらお互いについて話した。お互いのことをよく知らないまま、ダーカーの襲撃にあい、共に戦っていた。ゆっくり、話し合う時間をようやく取ることができた。
「クロノという男から、私を守ってくれたのね。ありがとう」
紅園は、柔らかな表情を浮かべ、黒瀬に感謝の言葉を言った。
「ああ、紅園も僕のことを守ってくれたし。お互い様だよ。クロノは女性がアンブラに連れ去られたと言っていた。多分、その女性は一花のことだと思う」
「アンブラ。やっぱり、あなたの言う一花さんは影隠しにあったみたいね」
黒瀬は、夜風に揺れる花々に一花との日々を思い出し言った。
「アンブラってなんなんだ。ここじゃない遠い場所のような気がする」
黒瀬は、なんとなくだが一花が今、普通では手の届かないようなずっと遥か遠方へと行ってしまったのではないかと感じていた。
「そうね。アンブラは影の世界。この世界と
焚き火の炎が、影を揺らす。
「アンブラに行く方法はないのか。今すぐにでも向かいたい」
「ないわけじゃない。ただし、アンブラは、とても危険よ。ダーカーたちが、うろちょろしてるし、影の住人と呼ばれる人たちが住んでる。命の保証はできないわよ」
「危険は承知の上だ。僕を影の世界に連れて行ってほしい」
紅園は、真剣な表情で返答する僕を見て微笑んだ。
「ふふ、やっぱりね。あなたなら、そう答えるんじゃないかって思ってた。いいわ。あなたを連れて行ってあげる」
紅園はそう言うと、立ち上がり、なにか呪文のようなものを唱え始めた。
『この世界の影たちよ。アンブラへの扉を開き、私達を導き給えーー』
彼女が呪文を唱えた直後、風がビュッと吹き抜けて花畑の花びらが美しく舞う。周りの影が一箇所に集まっていき、巨大な扉を作り出した。音を立てて、扉がひとりでに開くと、その先に影の世界への道が見えた。
「すごい!!この扉の向こうに影の世界があるのか」
「ええ、そうよ。扉の先に影の世界アンブラが広がっている。厳しい旅になるはずよ。命の保証はない。最後にもう一度だけあなたに聞くわ。影の世界に行く覚悟はある?」
紅園は、黒瀬の方を振り向き問いかける。そんな彼女の問いかけに、黒瀬は頷き答えた。
「もちろんだ。僕は影の世界に行って絶対に一花を救い出してみせる」
黒瀬の揺るぎない決意を紅園は感じ安堵の表情を浮かべる。
「愚問だったみたいね。行きましょう、影の世界アンブラへ」
「ああ、行こう」
黒瀬と紅園の二人はゆっくりと異世界へと通じる巨大な扉へと歩を進める。
これから、どんな世界が広がり、どんな出来事が起こるのだろうか。全然、先行きは分からない。だけど、きっと、一花を救い出してやる。希望がある限り、僕は絶対に諦めない。
黒瀬は、一花への思いを拳で強く握りしめ、まっすぐ前を向いた。
ーーそして、異世界への扉に一歩前に踏み入れる。その直後、ひとりでに扉が閉まり、二人を閉ざした。
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