09_血みどろの現実

 まずい。身体が闇に沈んでいく。


 紅園は、地面の影に引き込まれ動けなくなっていた。ダーカーは、くねくねと動き2つに割れた頭を彼女に近づけ捕食ほしょくしようとしている。

 

 私はこんなところで死ねないのに。


 紅園もまた、黒瀬同様、血が身体から漏れて意識が朦朧もうろうとしていた。彼女は、どうしようもない絶望的な状況に死を予感した。


 そんな中、不意に彼女の大切な存在を思い出す。友であり、自分を救ってくれた存在だ。


 佳織、あなたが救ってくれたこの命を無駄にはしたくない。


 ◆◆◆


 紅園は、ずっと孤独だった。小学生の頃、ダーカーの魔の手が彼女の家族を引き裂いた。


 お父さん、お母さん……。


 紅園が学校から自宅に帰ってくると、家の中は、赤く染まっていた。床に血を流した両親が倒れており、その側には、虚ろな目で彼女を見つめるダーカーが立っていた。


「朱音、早く逃げて」

 

 かろうじて意識があった母親の声が響く。


「でも……」

 

 紅園は、目の前の出来事に混乱し、戸惑う。


「何してるの、早く逃げなさい!!!」


 力強い母親の声を聞き、紅園はようやく家の外へと駆け出した。両親との思い出が頭を過り、涙が自ずと頬を伝った。悪い夢と思いたかったが、彼女の胸の痛みが、先程の悲惨ひさんな光景が夢ではなく現実であることを告げていた。 


 なんで、なんで、こんなことに。私が、家族が何をしたっていうの……。


 世界の理不尽さを噛み締めながら、ただひたすらに、行く宛もなく彼女はダーカーから、悲惨な現実から逃げるように走り続けた。


 だが、紅園はダーカーの魔の手からは逃れることはできなかった。


「そんな……嘘でしょ……」


 紅園は、足を止めた。彼女が走る通路の先には、先程まで家の中にいたはずのダーカーが立っていた。ダーカーのどろどろとした身体からは、彼女の両親の身体の一部が、飛び出していた。



 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る