『いいかい? 魔物とは何か、色眼鏡を外して見るようにするんだよ』

 家の書庫の一角、黒い皮表紙の古い本を手に取ると、こんな物語が広がっていた——。

 まさにそんな前置きがピッタリとはまるような、仄暗く深い森の奥とそこに棲まう"魔物"、そして村から残酷な仕打ちを受け森の奥深くへと入り込む少女の出逢いからこの物語はスタートします。

 序盤に語られる今は亡き少女の両親の言葉、そしてそれを辿るような各エピソードのタイトルにも想像力を掻き立てられます。 

“こどもは森に入ってはいけないよ。恐ろしい魔物がお前を石にして食べてしまうからね”

 そんな村の誰もが知っている言い伝え。
 そして謎に包まれた父の仕事を探るように、森へと足を踏み入れた少女アン。

 彼女がそこで出逢ったのはまるで暗闇のような魔物で——。

 魔物と呼ばれた彼を、やがてアンは名をつけて呼び始め、不思議な数日間が始まります。
 たくさんの不思議な小道具達。
 彼らの交流を通して視えてくる真実。
 人の欲、そしてアンの中にあった弱々しく諦めきったような絶望が、その先を見つめる瞬間。

 その一つ一つが、目を離せないほど魅力的で、厳かな雰囲気の中にも色鮮やかな世界が見えてくるような描写には脱帽のひと言。

 最後に訪れた真実に、人々が恐れた"魔物"とは一体何だったのか……きっとどの答えでも間違いではないのだろうという素晴らしい幕引き。

『森に入ってはいけないよ』
 けれど、アナタは既にこの物語の森の中へと誘われてしまった。
 ならば、少女と一緒にその正体を知ろうではないか——。