疎まれ魔女の願い事。恋する猫の願い事。
毒島かすみ
第一章『終焉の魔女』
第1話 猫の願い事
この想いは決して叶う事は無いだろう。そして、伝わる事も決して無い。 『猫』として生きている限りは――
あらゆる種の生物が存在するこの世で、果たしてその振り分けは如何にしてされるのだろうか――と、とある猫は考える。
神によって決められるのだろうか? それとも、生を受ける直前の己自身?
いずれにしても、こうして『猫』として生まれた事を心底呪う。
何故なら、『人間』に愛される事を望む『魔女』に『猫』は恋をしているからだ。
◎
猫は彼女の哀しい微笑みを見る度に思う……もしも、自分が猫じゃなかったら……と。
猫は思う……もしも、君と会話する事が出来れば、君を本当の意味で笑顔にする事が出来るのにと――
猫は思う……もしも、こんな体じゃなければ、君が辛い時、寂しい時に抱き締めてやれるのにと――
猫は思う……もしも、己がニンゲンだったならば、それでも君は
猫は誓う……必ず君を幸せにすると。
◎
世界はたった一人の少女の存在を恐れた。
『終焉の魔女』――その通り名通り、世界に終焉をもたらす程の圧倒的魔法力を持つ彼女は千年も前から姿を変えずして存在し続けている。
そんな人智を超えた在り方も彼女が怖れられている要因の一つだろう。
◎
『終焉の魔女』こと、シャルナは人里離れた山奥で完全に世界から孤立した生活を送っていた。
だが、そんな彼女の生活環境は、意外にも不自由していない。
簡素ながらも魔法で造られた小さな一軒家はシャルナの自信作である。
そして、日常生活で欠かせる事のできない火と水……こちらについても魔法で生成できるので問題ない。 問題なのは、食料調達について。
当然ながらシャルナは店で食料を買う……なんて事は出来ない。 魔法でも無理。
なので、シャルナの主食はもっぱら山で採れる木の実や山菜。 たまに、肉や魚も食べるが獲るのが面倒な為嫌厭しがちである。
「うん。 今日は沢山採れた!」
シャルナは最近見つけた、木の実がよく採れるお気に入りの場所で一人小さな嬉びを呟くと、両手一杯の木の実を近くに置いてある
「でも、これでも三日分くらいしかないよね……はぁ。 食べ物も魔法で作れたらいいんだけど」
溜息混じりの不満を呟き、シャルナは籠を手に持つと家路に着いた。
◎
「――ただいま、クロ。」
暖炉の前で気持ち良さそうに横たわっていた一匹の黒猫。シャルナの帰宅に反応を示し起き上がると、そのまま出迎えるように玄関口へと歩み寄っていく。
見た目のままにシャルナが名付けた『クロ』は、天涯孤独のシャルナにとってかけがえのない存在で、心を許す唯一の話相手。 話と言っても「にゃ〜」としか言わないのだが。
「クロ、お腹空いたでしょ? はい。」
シャルナは採ってきた木の実を木製の器に入れ、クロの前に差し出すと、クロはそれを待ち侘びたかの様に頭を器の中へ突っ込んでがむしゃらに食べ始めた。
「……おいしい?」
シャルナはその場に座り込むとクロが食べる様子を微笑みを浮かべながら見つめ、黒い毛で覆われた背中を撫で始めた。
だが、そんなシャルナの姿はどこか儚さを含んでいて切なくも見える。
「……ねぇ。クロ? そろそろお魚……食べたくない?」
それまで一心不乱に木の実を貪っていたクロが一瞬耳をピクつかせると、顔をあげ「にゃ〜」と一声鳴いた。
そして、その後は再びその顔を下へ向け、引き続き木の実を貪る。
「最近ずっと木の実ばっかりだったもんね。 じゃあ次に、この木の実が無くなった時は魚、獲ってくるね」
シャルナはそう言うと再びクロの食事の様子を見つめる。
見つめていると、無性に寂しさが込み上げ、自然に己の願望を呟いていた。
「……もし、クロが喋れたらなぁ……はぁ。 誰かと話したい……
一瞬、語尾に凄まじい嫌悪感が挟んだ事はさて置いて、シャルナは誰かと共に暮らし、支え合い、愛し合い――そんな日々を誰かと送ってみたい。 でも、そんな事を思う資格は……
「私にはないよね……どうして、私がこんな役目背負わされなきゃならないの?」
シャルナの言う
「……にゃ〜」
クロの鳴き声で我に返ると、それまでがむしゃらに木の実を貪っていたはずのクロが頭を上げ、シャルナの顔を見上げていた。
「何? 慰めてくれるの?――そうだよね。 こんな事思ったらクロに失礼だよね。」
シャルナは、己に言い聞かせるように「クロがいる。クロに支えられてる……」と呟くが、それでもやっぱり寂しい目をして――
「クロ……私の旦那さんになってくれる?」
クロは食事を中断したまま無反応を貫くが、視線はシャルナの顔を――目を見続けていた。 じーっと、瞬きも無く、いつまでも。
◎
猫は願う……生まれ変われるなら次はニンゲンが良いと――そして、その時にまた今と同じ
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