第21話 いつ聴いても泣けるOP
「いやー、しかし、『獣星戦隊ガンギマン』のオープニングは、いつ聴いても、泣けるわー」
「え、特撮のオープニング曲を聴いて泣いてたんですか?」
ぼくはびっくりした。普通そんなもの聴いて、泣く人はいない。
「お、少年、ガンギマン知ってるのか?」お姉さんの目が輝いた。やばいと思ったが、あとの祭りだった。
「え、まあ、子供の頃、見てましたから……」
「そうかぁ、じゃ、この話、知ってる?」
そこからお姉さんは一気に語りだした。
だいたいの内容はこうである。
この特撮番組『獣星戦隊ガンギマン』を制作するにあたり、当時のプロデューサーはオープニング曲を、ある大御所アニソン歌手に依頼しようと思いついた。そして、引退して隠棲している大御所アニソン歌手の自宅を訪ねて直談判したのである。だが、断られてしまう。
しかし、どうしてもその大御所アニソン歌手にオープニング曲を歌ってもらいたかったプロデューサーは、頼んで頼んで頼みまくり、拝んで拝んで拝み倒した末、とうとう歌うことを承諾してもらう。ただし、条件を付けられた。
「おれの名前は絶対に出すな」と。
そこで『
「ところがね」お姉さんはちょっと涙ぐみながら、熱く語る。「おれの名前を出すなと言ったその大御所アニソン歌手がガンギマンの曲を、誰だか分からないように適当な歌声で歌ったのかと言うと、それが全然違うのよ。もう全力全開のバリバリなシモニック唱法で、これでもかってくらい熱く燃えるように熱唱したの。あそこまで歌える人は、日本には、いえ世界にも、彼以外にいない。特に、燃えるようなマーチ調で歌った1コーラス目に比して、本来CDを買わないと聞けない2コーラス目は、悲しく、それでいて熱く、まるで頬を伝う涙のように歌い上げられているの。この2コーラス目は、もうほんと、全世界の人に聴いてもらいたいわ」
と、言ってイアフォンを差し出してくる。
もしここでその曲を聴いて、ぼくが感動の涙を流さなかったら、なんか大変なことになりそうなので、「今は遠慮しておきます」とやんわりと拒絶し、すかさず話題を変えた。
「その大御所アニソン歌手って、『ささきいそお』さんとかのことなんですか?」ぼくはガンギマンは知っているが、歌を歌っていた人のことまではよく分からない。
「ささきいそおも、素晴らしい歌い手よね」お姉さんは鼻の穴を膨らませてうなずくと、「だが、
ぼくが、「え?」と言ってしばらく固まると、お姉さんがなにやら先を促すような目を向けてくる。「あ、じゃあ、日本で一番は?……」
とたんにお姉さんの機嫌がよくなり、立てた人差し指を左右に振って、「ちっちっちっ」と舌打ちする。そうしておいて、親指でイアフォンを指さした。かの歌手だと言いたいらしい。
ぼくは茫然とお姉さんの差し出すイアフォンを見つめた。これはどうやら、この曲を聴かないと、許してくれそうになかった。
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