核心に迫る

「…と、言いますと?」

完全に赤城の余裕がなくなったように見える。


「だってそうでしょ?この5人を殺して最終的に自分が自主するつもりなら、わざわざ苦労して島の役員にまでなって、長い時間をかけてこの島に5人集めて同時に殺す意味なんてあるのかしら?5人殺し終わるまでに捕まらないように気をつける必要はあるけど、5人同じ場所に集まるより、別々にバレないように殺して行く方が絶対に楽だと思うけど。」


「俺は名案だと思ったんだけどな。だって5人ですよ?バラバラなところにいられて4人目までは出来るだけ捕まるのが遅くなるように殺すって、自分はそれを計画するのが大変だな〜って思ったんですけど、違います?」


「そうかしら?もし私が犯人なら5人をいっぺんにまとめることはしないわ。あなたもそこを工夫したように殺しながら怪しまれないようにするのが大変じゃない。そうね、私なら最初に高橋さんに会わせると言って三森さんをこっそり殺す。そのあと平塚という協力者もいるわけだから、高橋さんと塩見さんよく一緒にいるわけだし同時にやって、最後に佐藤さんをあなたがやったように島に呼び出して管理人とパパッと同時に殺すの3回に分けるかしらね。それが一番ちょうどいいと思うわ。」


「確かに良い案ですね。でも思いつかなかったなぁ。」


「思いつかない??ふざけないでよ。よく考えなくてもこんなのすぐに思いつくわ。わざわざ島に全員集めて扉を開かなくするとか窓を開かなくするとかテロリストまで用意するという発想に至る方が変だわ。そこに他の意味があるんじゃなくて?」


「同時に殺すことに他に何の意味があるって言うんですか。」


「はぁ。あなたもここまでね。自分が全員一気に殺して快感を得たい快楽殺人鬼とか、何でもいいから理由をでっち上げれば良かったのに。」

どうやら風間さんの中では結論は最初から出ているようだ。


「私にはこの一連の殺人を誰かに見せつけているように見える。こんな大掛かりなことまでやってのけるんだから、相当なアピールね。」


「変な話ですね。大量殺人を誰かに見せて何になるって言うんですか。」

さすがの自分も赤城が今反応に少し遅れたことを見逃さなかった。図星なのだろうか。


「私はあなたが犯人ってわかってからずっと考えてたのよ。あなたと話す前から私の中で結論は出てた。今までの不自然な点が全部辻褄が合っていくように感じたわ。」


「推理ごっこが好きなようですね。俺すごく気分悪くなりましたよ。せっかく自分の目標通りに物事が進んで潔く自首して人生を終わろうとしてたのに、勝手にありもしないことを作り上げて引っ掻き回すのやめてもらえますか?」

赤城は余裕がなくなったのを通り越して怒りを露わにしていた。風間を静かに睨んでいる。


「あら。最初から私の言ってることがただの虚言で何も思い当たる節がないのなら怒る必要もないと思うけど。」


「あなたは口がうまいからね。ないことをでっち上げられてしまうかもしれない。」


「口がうまいんじゃないわよ。紛れもない事実としてある不自然な点を発言しただけよ。」


「俺は不自然だとは思いませんけど。」


「いや、私もおかしいと思う。」

そう発言したのは橘さんだった。


「殺人をする人の思考なんて分かりたくはないけど、5人を殺そうって考えた時、島の役員になるなんて発想もテロリストを用意するなんて発想も普通は思いつかない気がする。それにもし思い付いたとしても手が掛かりすぎてこの策は無理だとボツにするのが自然だと思う。それなのにそれを実行したってことは5人を殺す以外の目的があるってことだと私も思う。」


「橘さんまで。やだなぁ。」

赤城はまた笑ったが、先ほどまでの余裕はなかった。


「皆さん、待ってくださいよ。だって実際殺人は無事に成功してるんですよ?この島を選んだのは環境が整ってたからです。殺人対象が簡単に逃げられない環境や警察がすぐには来れない環境がね。この理由は自然でしょ?」


「なんでその理由すぐに言えなかったのかしらね。」


「風間さん、人をからかうのはそこまでにしてもらえませんか。」

赤城が声を荒げていよいよあからさまに怒りをあらわにした。


「その理由にしたっておかしいわよ。最後まで絶対捕まりたくないならまだ今回のことをやった理由はわかるわ。最後はテロリストの仕業だってして逃げたかったとかならまだね。それでもすぐにボロは出るでしょうけど。でもあなた最初から最後は捕まる気だったんでしょ?ただ殺し終わるまでは捕まらないためにという目的のためだけにここまでやったというのは、理由としては足りないわ」


「みなさん、冷静になってください。100歩譲って周りから見たら俺の取った行動はおかしかったと言われるんであればまあそうなのかなということで認めますよ。でも殺人を犯すってさっきも言いましたけどいろんな葛藤があるんです。だからおかしい方向に行くのかもしれない。俺だって根っからのサイコパスじゃないから今日ここに達するまでいろんな悩みを抱えてきたんです。でも複雑すぎてそれを全て説明することはできない。その結果風間さんに言われるような不自然な点ができてしまった。ただそれだけです。皆さんは犯人が無事拘束されて捕まったんだから良いじゃありませんか。それをなんで警察や探偵の真似事のように風間さんを筆頭にこんなに問い詰められなければならないのか意味がわかりません。それこそこの状況でそんなことができる風間さんも不自然だとは思いませんか?」


「赤城の言うことも最もには聞こえるが、自分達の中の違和感は殺人を犯すから正気ではなかったの理由ばかりで何も解消されていない。そもそも殺害動機から不思議でたまらなかったんだ。」

ついに自分は我慢できず口を開いた。


「今お前は見た目も悪くなくて犯人だとバレる前の立ち振る舞いを見ても男女問わず好かれるだろう。もちろんいじめは良くない。それが一生心の傷として消えないことも理解はできる。だが今お前に何か体にいじめの後遺症が残っているように見えなければ、さっきの理由で今はとても充実しているように見える。それなのにわざわざ10年以上前の恨みで殺人を今更起こすことから違和感を覚えていた。」


「それはいじめを受けたことがある人にしかわかりませんよ。」


「確かにそれはそうなのかもしれない。でもお前はさっきからこちらが抱いてる違和感を話すとそのような自分にしかわからないとか正気じゃなかったからとかはっきりしない理由しか言わない。話せば話すほど疑いが強くなっている。」

風間さんに乗って自分も深掘りしてみる。


「そう言われましても本音なんでね。」


「ああもう面倒くさい。もう私がたどり着いた結論を話しますね。」

風間さんが核心を話そうとする。


「勝手に結論とかやめてくださいよ。」


「黙りなさい。」


「おいお前なぁ。」

よっぽど話されたくないのか赤城が拘束されたまま身を乗り出してきた。

慌てて飯田さんと自分で包丁を突き立て直す。


「どうせ刺せねえだろ?」

突然低い声で赤城が馬鹿にしたように自分を見ながらそう言った。これはまずい。


「あんまりこれ以上変なことすると、ここにいる全員殺しますよ?だってここから何人殺そうが俺の死刑は変わらないもん。怖いものなんて何にもない!あはははははは!」


その場が一気に凍りついた。

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