-7- 前日

 目覚まし時計を止めてからもしばらく、真夏はベッドの上でぼーっとしていた。ショッピングモールは10時に開く。次の日、昌彦に会う時に、あまり子供じみていると恥ずかしいなと真夏は思った。高校の入学祝いに、アパレル店員をしている真夏の従姉妹が、メイクセットをくれたこと、そして戸棚の奥にずっと追いやられていたことを思い出した。従姉妹は、

「真夏はこういうのしないかもしれないけど、私は、高校に入学した時、これが本当に欲しかったんだよ。趣味の押し付けになっていたらゴメンだけど。」

 と、言っていた。

 ネットで動画を見ながら、メイクの練習をしてみた。薄すぎると思って少し色を重ねると濃すぎるようで、鏡を見ながら顔がおかしくなっていく真夏を見て、真夏の母親は面白がりながらも、

「これ、お母さんのメイク落とし。あまり使いすぎないようにね。」

 と、助けてくれた。

「今日は何かあるの。」

「あそこのショッピングモールに行きたいんだけど。」

 母親は、真夏が友達と行くのだと思ったようだった。真夏の母親は、真夏の生きづらさには、全く気付いていないようだった。そして、それが、真夏を救っていることにもなり、真夏の孤独感を募らせることにもなった。

 初めてのメイクは散々で、まともに仕上がる頃には、お昼を回っていた。

 真夏には、まともな洋服がなく、ショッピングモールで洋服を買おうと思っていたので、予算の都合上、お昼を外で食べることを諦め、家にあったカップ麺をすすってから、慌てて家を出た。ショッピングモールでの洋服選びは、思いの外楽しいものだった。久しぶりに歩き回ってクタクタになったが、店員さんの方から話しかけてくれるし、真夏のことを変な目で見て来ないので、とても落ち着いて選ぶことが出来た。夕方、家に帰った真夏は、とても疲れて夕飯まで昼寝をしてしまった。次の日に昌彦と会うのは、真夏の家からわりと近くの駅、渋谷駅でお昼の11時だったので、ゆっくり眠ることが出来そうだった。真夏は早起きが苦手なので、とても助かった。

「明日は、よろしくお願いします。」

 LINEを送ると、「よろしく!」というパンダのスタンプが返ってきた。この人は、絶対に嫌いになれない。だって、いい人だから。真夏は、そう思った。

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