近畿地方

三重県

第6話 オロチの能力

「はあっ、はあっ」

「大宮神…」


 俺は今にも死にそうな顔で手を付き空を見上げる。

 一方のオロチはそんな俺を心配そうに覗き込んでくる。

「オロチ…俺もうダメかもしれない。」

「そんな!まだ早いですよ!さっき冒険を始めたばかりだと言うのに!こんな、こんなに早くに!」


 俺の言葉に驚いたように叫ぶオロチ。





!」 

「くっ!はぁ、はぁ」


 ごめんなさい!

 その言葉を言う余裕すら今の俺にはなかった。


 でも言い訳をさせてほしい。

 奈良県から三重県に行くなら普通馬車とかに乗って行くものだと思うだろう?


 ところが、いつまでもたっても馬車に乗らない。そのことを不審に思った俺は、オロチに尋ねてみたのだ。すると

「何を甘えたことを言ってるんですか!走りに決まっているじゃないですか!」

 とニコニコしながら言ってきたのだ。

 どうやらオロチはドSだったようだ。


 一方の俺はというと高校に入ってから友達と遊び回っていたせいで運動が足りず、走ってすぐに筋肉痛がやってきたというわけだ。


「そんなこと言って大宮神さんもっといけますよね?」

「ほんっとに……むりぃ」

「えぇ…まだ4キロしか走ってないですよ。」

「うん、ごめん」


 オロチが白目で見つめてくる。うぅ視線が痛い。

 こんなことになるのなら日頃からトレーニングやっておけばよかった。


 そうやって後悔していると、オロチが一つため息を付いた。

「今日は大宮神が実戦でどれくらい戦えるのか確かめるためにわざと馬車を使わずに走ったんですけど、このままじゃ全然三重県につく気配がないので、馬車を使うことにします。」

「うん。ありがとう…」

「でもこのままなら本当にまずいですから、日頃からトレーニングはしっかりしてくださいね。」

「はい…」


 オロチにしぼられた俺はガックリとうなだれた。

          ◇◇◇

 その後、馬車を呼んでからは、楽々山を超え谷を超え、三重県にやってきた。

 あと少しで天照大神あまてらすおおみかみがいる神社に着くとのことだったが、


「暗くなってきましたね。」

「だな。」


 オロチと天を見上げながら言葉をかわす。


「じゃあ今日はこのあたりで泊まりましょうか。」

「わかった。野宿か?」


 俺はオロチに尋ねる。現代なら野宿なんてありえないのだが、この時代は建物があまりなく、現に周りには寝床になりうる、ちょうどいい建物はなかった。


 するとオロチがクスクスと笑い始める。

「神様に野宿させるわけないじゃないですか!」

「え…じゃあどこで寝るの…?」

「ちょっと待っててください。今から作りますね!」


 満面の笑顔を見せるオロチ。




 おもむろに自分の髪の毛を五本ほどむしり取る。


 そして地面にそっと置く。


 自身も地面にしゃがみ込み、


 そして

「スキル発動!蛇奴隷スネークスレーブ

「っ!」


 オロチが力強く呪文のような言葉を唱えた途端、先程むしり取った髪の毛がわずかに光る。

 そしてみるみる形が変わっていき……

「シュルルルルッ」

 蛇になった。


 しかし一般的に現代に生きるヒトが思うような獰猛な感じではなく、むしろペットのような感じでオロチにすり寄ってくる。


 そんな蛇たちに向かって、優しく命令する。

「大宮主神が今夜眠ることができるような寝床を作ってきてくれ!」

「シュルルルルッ」

 すると蛇は鳴き声を揚げながら、地面に潜り込んでいった。

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……

 …え?

「オロチさん?」

「あ、はい!何でしょうか?」

「うん、えーっと、今の何?」


 世にも奇妙なものを目の前で見せられた俺は、ビクビクしながら、オロチに尋ねる。

 すると、オロチは「ああそういえば説明してなかったか…」みたいなことを呟きつつ、

「いまのは僕のスキルの『蛇奴隷スネークスレーブ』です。身の回りの細長いものを蛇に変えて自分の奴隷にできるっていうスキルですね。」


 淡々と要点だけ伝えてくれるオロチの説明を聞いていたが、ふと俺は思った。

「そのスキル、俺より強くね?」

「まあ、『協力』よりは強いと思いますけど…」

「だよね⁉ねえ、オロチ。この日本統一って俺がするよりオロチがしたほうがいいんじゃないかな⁉」


 もう何がなんだかわからない。

 なんで俺に仕えてくれるオロチが俺より強いスキルを持っているのか。


 頭が混乱してきたところでクスッとオロチが笑う。


「大宮神!落ち着いてください。このあと大宮神はきっとたくさんのスキルを得ることができるじゃないですか。そうしたら、僕の『蛇奴隷スネークスレーブ』よりももっと強力になると思いますよ。」

「でもそんなこと言ったら、君がもっといいスキルを手に入れたらいいんじゃないか…?」

「いえいえ。実はスキルっていうのは何個も持つことができるものではないのです。普通の精霊はスキルを一個も持つことができません。しかし、僕のように精霊の中でも偉い方になるとスキルを一個だけ持つことができるんです。」


 そこで一回言葉を切って、天を見上げる。

「でも神様っていうのは、スキルを上限なく何個でも身につけることができます。だから初期スキルが雑魚くても増やしていくと、僕ら精霊の力を遥かに凌ぐ力を手に入れられるんです。だから、頑張ってくださいね!」


 心なしか最後の方、オロチの声が震えていた気がする。



 どうしたの?


 そう聞こうと思ったとき、先程の蛇が地上に戻ってきて寝床を作った報告をし始めたので、聞くタイミングを逃してしまった。

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