第4話 現状把握

 とりあえず頭の中の情報を整理しようかな。


 まず、トラックに轢かれて死をも覚悟したけれど気がつくと転生用の部屋に招待されていた、と。


 で、そこで転生先を四択の中から選べるようになっていて、俺は〘平和な異世界〙を選択しようと思った。

 でも直前になって押していいのかどうか迷った結果手がブレて、〘過去〙に転生してしまった、と。


 呆然としているところに、仙人のような見た目の高御産巣日神たかみむすひのかみがやってきて、俺に

「全国47都道府県にいる神を従わせて日本を統一してほしいんじゃ!」

 とか言い出したと。


 今現在持っているスキルはどう考えても底辺スキルであることに間違いない『協力』ただ一つ。

 この「スキル」は都道府県ごとにいる県神を倒すごとに解放される。

 でもって、地方ごとに地方神というのがいて、その神様は他の県神と比べて強いらしい。

 今持っている情報はこれくらいか。


 そのうえで、

「いや、俺このあとどうしたらいいの?」

 何をすればいいのか見当がつかないのだ。

 もうちょっとこの世界のことについて説明してほしかった、そうぼやいていると

「大宮神!大宮神!」

「ああ、はい。」


 突然声をかけられて驚いた。

 というか、今俺は「大宮翼」じゃなくて、「大宮神」となっていることすら完全に頭から抜けていた。

 この世界でやっていくためにはこれも忘れちゃだめだな、と自分に言い聞かせながら声の方向を振り返る。

 するとそこには自分くらいの年の少年がいて、

「私は今日から県神である大宮神に仕えさせていただきますオロチと申しますっ!若輩者ですが、どうかよろしくおねがいします」

 と言いながら、深々と頭を下げていた。

「そんな!顔を上げてください!」

「では…失礼します。」

 顔を上げた少年を見て俺は唸る。

 鋭い目つきにシュッとした鼻筋。そして小ぶりな口。

 髪は銀髪だが、長くて後ろで一つに結っている。

 スタイルもよく、髪型さえ変えれば、現代にいると某男子アイドルグループにスカウトされていてもおかしくないような感じの少年だった。


 そんな少年に少し気圧されつつも、

「オロチ、さんですね。もう少し自己紹介してもらってもいいですか?」

 と、頼んでみる。

 すると、少年――もといオロチさんがあわわわわと慌てながら

「申し訳ございませんっ!」

 と謝ってくる。


 どうしてこんなイケメンな人が俺にペコペコしてくるんだろうか?

 一瞬疑問に思ったがすぐに答えに行き着く。

 ―――そりゃそうか。だって今、俺神だもんな。―――


 理由がわかったからには、もうするべきことはわかっている。

「オロチさん。自己紹介もしていただきたいのですが、その前にその敬語をやめていただけると助かります。」

「とんでもないです!だって」

「僕が神だから、ですか?」


 オロチさんの言葉を先回って言い当てると、オロチさんは口を開いたまま言葉を失ってしまう。

 そして、しばらく動きが止まったあと、「さ、左様でございます…」と小さな声で答えてくれた。


 そんなオロチさんに俺は話しかける。

「たしかに僕は神ということになっています。でも神になったのはいきなりの出来事で僕も混乱している部分もたくさんあるんです。だからこれからたくさん関わることになるかもしれないオロチさんだけでもいいから、敬語なんて仰々しいものを使わずに僕と接してほしいんです。」

 そっちのほうが僕もリラックスできますしね!

 そう言いながら笑いかけると、何やら葛藤している様子を見せるオロチさん。

 しかし、考えが纏まったようで俺の方に向き直るとこういった。

「わかりました、じゃなくて、わかった。その代わりと言ってはなんだけど、僕のこともオロチと呼び捨てで呼んでほしい。」

「オッケー。じゃあオロチ。よろしくね!」


 そう言って俺が手を差し出すとはにかんだ笑みを浮かべながら手を握り返してくるオロチ。

 その可愛さには同性の俺でも圧倒されるものがありこれが"ギャップ萌え"というものなのかと理解する。


「よ、よし!じゃあ早速詳しい自己紹介してもらえるかな?」

 しかし、会話をそらさせることなく俺はオロチに自己紹介を促した。

「わかった。僕の名前はオロチ。神様ではなくて蛇の精霊をやっています。あと、今回は高御産巣日神《たかみむすひのかみ様の命令により大宮神が慣れない異世界で苦労したり、知識の不足で困ることのないように補助するという目的も授かっています!」

「そうなんだ。ありがとうね。蛇の精霊って言うことはオロチも蛇に変身できるの?」

「蛇に変身はできませんけど、やろうと思えばこの髪の毛一本一本を蛇に変えることもできますよ。」

「ちょっとそれは怖いかもね。わかった君のことは大体わかった気がする。ありがとうね!あと途中から敬語また入ってきちゃってるよ。」

 感謝とともに敬語が入ってきてしまっていることを伝える。するとオロチも苦笑いしながら、

「やっぱり僕達精霊が神に向かってタメ口で話すというのは慣れないことなんです。慣れるまでもう少し待ってください」

 と言ってくる。俺がしょうがないなぁと言うと二人して吹き出してしまった。


 オロチとはいいコンビが組めるかもしれない。

 オロチと笑い合いながら翼はそう思った。

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