第1話 転生

 奈良。


 閑静な街に似合わない、けたたましいサイレンが響きまわり、あたり一面が騒然とする。


 ひき逃げがあったという通報を受け、現場に急行した救急隊員が救急車からすばやく降りてくる。


「おい!被害者はどこだ⁉」

「こっちに…って、あれ?え?さっきまでそこにうつ伏せの状態で倒れてたはずなんだけどな…?」


 しかし、救急車が到着したときにはその事故の痕跡は、血痕一つ残さず、綺麗サッパリ消えていた。

          ◇◇◇



「グワッ!」


 俺、大宮翼おおみやつばさは学校からの帰り道でトラックに轢かれた。

 学校で柔道をやっていたので、とっさに受け身をしたのだが、衝撃を吸収しきれなかったのか鈍い痛みとともに意識が遠のいていく。


 周りの人が「誰かはやく119に電話をかけろ!」と大声で言ってくれているらしいが、それすらも段々と聞こえなくなってくる。



 ごめん。母さん。父さん。俺ここで死ぬかも。





 そう思いながら、俺の意識はそこで途絶えた。

          ◇◇◇


「んん…ここ、は?」


 どこだ?ここ?というかなんで僕は寝てたんだ…?

 ああ、そうか。トラックに轢かれて意識を失ったんだっけ、

 じゃあここは病院のベットかな?とりあえず助かったみたいで良かった。


 まだぼんやりとした頭で考えながら周囲を見渡す。

 そこで俺は


(周りに誰もいない?というかなんで俺こんなに白い光に包まれてるの?ここ病院じゃないよね⁉)


 明らかに未知の空間にいることを徐々に自覚する。

 ただ、なぜか既視感がある。


 どこだ?

 なぜこんな現実離れしている状況に既視感があるんだ?




「あ」

 ここまで考えて俺はやっと理解したのだ。

 この状況の既視感への正体を。


「これ昨日読んだ異世界転生の漫画の転生シーンにそっくりじゃね?」


 あれはフィクションでこれは現実。

 そんな事起こるわけがない。

 でも、


「そう考えないと、いまの状況説明できないしな」


 現に今、俺の体は浮遊している。


 普通に考えて理解できる現象じゃないのは確かだ。

 それなら楽しまないと損だというものだ。


 この状況を楽しむってなんだよ、と一人突っ込んでいると、突然目の前にタブレットが現れる。


 そのタブレットの画面には

「転生先アンケート

 大宮翼様 

 突然失礼します。

 あなたは10万人に1人の確率でできる転生の権利を得ました。おめでとうございます。

 つきましてはあなたの理想の転生先を以下のアンケートにご記入ください。

                               すべてを司る大天使より」

 という文字が表示されていた。


 昨日読んだ漫画では、神様みたいな人が目の前に現れて、主人公に事情を説明していたことを思い出す。


 それがタブレットで代用されていることに気がつくと俺は少しモヤッとしたものを感じる。

 俺の扱いなんかちょっと雑じゃね?

 まあ神様、というか『すべてを司る大天使』さんも忙しいのだろう。


 そもそも全てが自分の思い通りになる訳がない。


 そう自分に言い聞かせて、そのタブレットに目を遣る。


 そのタブレットに表示されているアンケートフォームをタップすると、アンケートが表示される。



『質問


 転生後にどんなところに行きたいですか?

 以下の選択肢から一つお選びください。


 1.〘戦闘系異世界〙

 2.〘平和な異世界〙

 3.〘古代〙

 4.〘未来〙


 ※お選びになったものは変更できません。慎重にお考えください。

  また選んだらその瞬間にその世界に転移します』


 ――いやいや。

 (これは一択なんじゃないか?

 まず〘戦闘系異世界〙は、異世界に行ってまで命からがら戦闘したくない。

 次に〘過去〙だけど、今便利な世の中に生きていたのに、過去に行って不便になりたいかって言われると絶対なりたくない。

 最後に〘未来〙は……今後世界がどうなるのか見てみるっていうのも悪くないけど、、、技術についていけなかったらって考えたら怖いし選択肢には入ってこないかな。)


 ということで、この質問にはあまり悩まなかった。


「俺は平和な異世界に行くんだ!」

 そう高らかに宣言して、タブレットの画面を押す。

 ――いや押そうとした。


 ふと脳裏に父さんと母さんの顔が浮かぶ。


 これを押したら、もう会えなくなるんじゃないか?

 他にも、友達や先生、彼女――はいないけど。



 とにかく自分がいなくなったら、少なからず悲しむ人がいるはずだ。


 こんな軽い気持ちでこの選択をしていいのか?


 手が震える。

 自分が今しようとしていることの重大さに気づいたのだ。


(でもこのままうじうじしていてもしょうがないじゃないか!決意を固めろ‼俺‼)


 自分に言い聞かせて、指をタブレットに向ける。

 しかし、手が震えて言うことを聞かない


 それでも無理やり指先とタブレットの間の距離を縮める。


 そして―――――

 ポチッ

「あっ」


 俺の指先は〘平和な異世界〙ではなく、〘古代〙を押していた。


 その瞬間、俺を包んでいた白い光がより眩しくなる。


 反射的に目を瞑る。


 しばらく光に包まれている感覚が続いた後、周りが徐々に暗くなっていくのがわかった。


 恐る恐る目を開けると、、、







 目の前にのどかな田園風景が広がっていた。



 ―――そもそも全てが自分の思い通りになる訳がない。

 数分前に自分に言い聞かせた言葉が、重く自分にのしかかってきた。

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