第4話 迷宮内部の不和

 迷宮を進む。


 最初に出現した魔物は粘獣スライムだった。


「はぁ、やっぱり雑魚専用迷宮は出現魔物も雑魚かよ。ジェル、任せるわ」


レオに言われた通りに俺は前に出る。内心――――


(だったら、斥候として俺を出しとけば良かっただろ。露払いくらいやってやるさ)  


 その不満は言葉にしなかった。 


(いや、止めよう。レオたちは斥候である俺の仕事をよく知らないから言っているのだろう)


 斥候は、迷宮に単独で先行していくのだ。レオたち冒険者仲間が通る前に雑魚は俺が始末している。


「――――」と松明を粘獣に向ける。


 それだけで粘獣は、俺を敵だと認識したのだろう。


 粘獣は四肢のない体でありながら、飛び掛かってくる。


 ノーモーションの動きに初心者は苦戦するだろうに、頭に絡みつかれると窒息死もあり得る。


「だが、俺だって初心者じゃないさ、せい!」


 襲い掛かって来る粘獣に松明で突きを繰り出す。


 蒸発するような音を出し、粘獣は地面に落下する。


 攻撃から一転して逃走しようとする粘獣だが――――


「そう簡単には逃がさない」


 俺は粘獣を逃がさないように、松明で上から押さえつける。


 暴れる粘獣も徐々に力がなくなり、動かなくなった。


 念のために剣を抜き、粘獣を刺すが完全に絶命していた。すると――――


「はい、お疲れ。やっぱ、雑魚は雑魚に任せるに限るわ」


 レオたちは、労いの言葉の代わりに「はぁ、くだらねぇ」と吐き捨てて、先に進めと促してきた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「やっぱり、変だ」と俺は足を止めた。


「あん、何がだよ?」とレオ


「今まで出て来た魔物は、粘獣と大蝙蝠だけだった」


「だから、それがどうした? 雑魚を押し付けられるのが不満か? だったら別に――――」


「初心者向けの迷宮で、ここまでゴブリンが出現しないのはおかしい」


 流石に俺の言葉が正しいと思ったのだろう。レオは足を止めた。


「ドロシー、シオン、荷物持ちの言葉をどう思う?」


「……」と2人は考える。


 シオンは


「わからない。異変が起きているなら望む所だ」


 ドロシーは


「目的のゴブリンは特別怪物エクストラモンスターでしょ? 共食いでもしてるんじゃないかな?」


 レオは2人の意見に満足そうに頷く。


「さすが、俺の仲間だ。その頼もしい言葉を、どこかの臆病者にも聞いてほしいぜ」


「違う……明らかに迷宮内で異変が起きている。それを放置するなんて――――」


 だが、最後まで言えなかった。


 レオが俺の胸倉を掴み、そのまま壁まで押し付けたのだ。  


 咄嗟の出来事。 まさか、迷宮内で仲間に手を出してこない。


 そう思っていた。どこかで、そう信用していたからだ。


「いい加減にしろよ。お前、わけのわからない妄言を!」


 レオは手を腰に――――


(馬鹿な。本当に俺を殺すつもりか!)


「止めておけ」とシオン。


 レオが抜こうとする剣を止めた。 


「役立たたずでも殺すのはまずい。それに――――」 

 

 シオンが指した方角。 こちらを窺っているゴブリンがいたのだ。    

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