第四膳『餃子と共同作業』(回答)

「じゃ、私は生地を作るから、天蓬テンポウさんは私の隣に来て、餡を作ってくれる? 餡は鳥と玉葱たまねぎで作ろうと思うんだけど、大丈夫?」


 保冷箱から鳥肉と玉葱たまねぎを取り出しながら、天蓬テンポウさんに声をかける。


 ―― 椎茸もいれたいところだけど、天蓬テンポウさんが茸はNGだからやめておこう。


 私は小麦粉をボールにはかりとると、塩を入れて混ぜ合わせる。そこに、薬缶のお湯をいれて、手でかき混ぜ始めた。


「でね、天蓬テンポウさんには、鳥の塊と玉葱を細かく刻んでほしいの」


 天蓬テンポウさんは金色の目をパシパシとさせている。少し首をかしげている。


「餃子といえば、羊か豚ではないのか?」

「え? だって、それじゃあ、共食いに……」

「共食い?」


 私の言葉に合点がいったのか、天蓬テンポウさんは、口角をあげた。


「なんだ、そんなことを気にしていたのか。俺は、呪いで猪になっただけで、猪や豚に同族意識は持っていないぞ。安心しろ。猪も豚も好物だ」

「え? でも、それってかなりシュール……」

「シュ? まあ、俺が豚の頭をかじっていたら、それはまわりがひくな」

「ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」

「構わない。……、俺は鳥と玉葱を細かくすればいいのだな」


 それから、たわいない話をしながら、お互いの作業を続ける。二人で並んで料理を作っていると、天蓬テンポウさんとの距離がぐっと近づいたような気がする。なんていうのかな。うまく言えない気持ち、でも、全然嫌じゃない気持ちが私の心を占めていく 


 ―― なるべく関わらないでおこうと距離をおいていた時よりも、ずっといいなぁ。

 ―― 自分が好きだからと言って、相手が好きとは限らない。だからこそ、相手を理解しようと努力しなきゃいけないんだ。


「じゃ、餡を包もうと思うんだけど、天蓬テンポウさんの知っている餃子って丸型? それとも半月型? それとも棒型?」

「? 餃子といえば丸だろ?」

「そうか、丸なのね。じゃあ、餃子って焼き? 茹で? 蒸し?」

「ああ。蒸し餃子だ」


 ―― 羊、丸、蒸し。ということは、天蓬テンポウさんの知っている餃子って食べてきた餃子は、おそらく、モンゴル料理のボーズに近いのかな?


「なあ、水蓮。俺が知っている餃子が餃子ではないのか?」

「うん。具もいろいろだし、形も、調理方法も地方によっていろいろよ。私が知っている餃子は、半月型の焼き餃子だもの」

「そうか、餃子にもいろいろあるのだな」


 天蓬テンポウさんがうんうんと頷いている。


「じゃあ、今日は、いろいろ試してみない? 半分は蒸し餃子に、半分は焼き餃子にするわ」



◇◇


「俺は、羊の肉の蒸し餃子しか食べたことがなかったが、鳥もうまいなぁあ。羊より臭みも少なくてあっさりしている。これならいくつでも食べられそうだ」

「お口にあってなにより。そうだ。天蓬テンポウさん、よかったら、醤油につけてみて」


 はふはふ言いながら、蒸し餃子を次から次へとそのまま口の中に入れている天蓬テンポウさんに声をかける。


「餃子を醤油につけるのか? それはまた……」と言いながら天蓬テンポウさんが醤油に蒸し餃子をつけて口に入れた。


「うまっ!」

「でしょー。鳥だけじゃあ、ちょっとあっさりしすぎているから、生姜入りのお醤油につけるとぐっと味が変わるのよ」

「そうか! そうだな!!」


 このままだと、先に蒸し餃子がなくなってしまいそうなので、「こっちの焼き餃子も食べてみて。皮の食感が違うから!」と天蓬テンポウさんに声をかける。

 そして、天蓬テンポウさんに見せるように、私は羽根の部分に箸をいれて焼き餃子をひとつとりわけて、酢醤油につけた。


 ―― このパリパリ感、さいこー!!


 一口噛めばパリっと、二口噛めばパリパリと音がする。そして、玉葱の甘味と一緒に肉汁が口の中に広がる。私は目をほそめて咀嚼した。


 それを見ていた天蓬テンポウさんが、見よう見まねで慎重に焼き餃子をひとつ取り、しげしげと眺める。


「持った感じでもわかるが、皮がパリッとしている。力をいれたら砕いてしまいそうだ」

「ここの部分は羽根っていってね、パリパリしていておいしいのよ」


 私は箸でとった餃子の羽根の部分を指しながら説明をする。天蓬テンポウさんが「そうか」と言って、持っていた餃子を口に入れた。


「うまっ」


 そういうと、 天蓬テンポウさんは焼き餃子を三ついっぺんに口の中に入れ、はふはふとしながら、咀嚼する。


「焼いた餃子は皮がパリッとしていて、口の中でパリパリ砕けるのがいい。それに、蒸した時よりも、じゅわっと肉汁があふれ出して、……、旨いなあぁ……」

「それはよかった」


 天蓬テンポウさんが、「うまい! うまい! 皿ごと食いたいくらいだ」と言いながら、餃子をあらかた食べてしまった。

 そして、残り数個というところで、天蓬テンポウさんが蒸し餃子と焼き餃子を見比べている。


「水蓮はどっちの餃子が好きなのか?」

「う―ん。どっちも好きかな。皮がしんなりと餡にまとわりついていると、餡の良さがひきたつし、焼き餃子は焼いた部分がパリパリしているし……」

「そうだな。どっちかだなんて選べないな」

「だよねー。でね、餃子にはあと、茹でるっていうのもあるのよ、茹で餃子は蒸し餃子よりももっと皮がトロっとしていて美味しいの」

「それは食べてみたいものだ」

「うん。今度、一緒に作ろうね」


 私の言葉を聞いて、天蓬テンポウさんの箸が止まった。


「水蓮、一緒に来てくれるのか?」


 金色のまっすぐな目が私を正面から見据える。期待に満ちているのか、牙のあたりの皮膚がピクピクしている。私は頷いて見せたけど、なんだか、照れくさくなって、蒸し餃子を一つ口に入れた。


「蒸し餃子もおいしいね。いつか、の国本場の蒸し餃子も食べてみたいな」

「おお! 任せておけ!! とびっきりうまいヤツをごちそうしてやる。もちろん、肉は羊でな!!」


 


 

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