二日目のきっぷ

名古屋

 しっかりと熟睡して、気持ち良く目覚めた。最近のビジネスホテルは寝具が素晴らしい。ベッドだけなら一流ホテルにも負けないだろう。時間は6時半過ぎ、窓のカーテンを開けると青空が広がっている。晴天というほどではないが、昨日よりも天気がよく、まさに旅行日和だ。


 ”あいつ”の旅程には書いてないが、私には行きたいところがあった。名古屋駅から二駅先の鶴舞つるまい駅にある鶴舞つるま公園だ。昨日、甲府で行ったのは舞鶴城公園なので紛らわしい。


 リュックはホテルに置いて、小物だけ持って名古屋駅の有人改札で青春18きっぷにスタンプを押してもらう。昨日は東京駅で押してもらったので、今日で二つ目だ。名古屋から鶴舞に行く電車は本数も多く移動も楽でよい。


 鶴舞駅で降りると、鶴舞公園は駅の目の前だ。明治42年に名古屋市に設置された最初の公園で、ローマ様式の噴水塔やアールヌーボーデザインの奏楽堂がランドマークとなっている。


 公園に入ると早速満開の桜が迎えてくれる。これだけでも素晴らしいが、噴水塔を半周弱廻ったところにある桜林が、私のお目当てだ。桜林の中の小道に入ると360度すべてが桜に囲まれて、桜林の名に恥じない見事さだ。日本の桜名所100選に選ばれるだけのことはある。コロナが流行る前は、きっとお花見シーズンは地元の人でいっぱいだったのだろう。風が吹くと桜の花が散り、私の体は桜吹雪で包まれる。まるで映画の一シーンのようだ。もちろん、私にヒロインなど務まるはずもないが。


 近所の人だろうか、早朝にも関わらず散策している人がけっこういて、皆、スマホで桜の写真を夢中になって撮っている。私も他の人からは同じように見られているに違いない。


 鶴舞公園は広すぎず、かといって狭すぎず、軽く散策するにはちょうど良い大きさだ。公園内にはいくつか人工の池もあり、周辺が散歩コースとなっている。桜だけでなく、バラやチューリップなども植えられており、季節ごとに違った花を楽しめる。バラはまだ蕾もついていないが、チューリップは蕾が大きく膨らみ、もう少しで咲きそうだ。


 鶴舞公園を満喫し、朝の気持ち良い散歩の後は朝食だ。モーニングを食べるために名古屋駅に戻る。『青春18きっぷ』があると、ちょっとした移動もとても便利だ。名古屋のモーニングと言えば、コーヒーを頼むとトーストや卵が無料でついてくるサービスが有名で、ただのトーストだけでなくあんこの載った小倉トーストなんてのもある。


 でも、今回私が選んだのは、ちょっとお洒落なイタリアンレストランだ。ランチや夕食では本格的なイタリア料理を提供するが、モーニングタイムはエッグベネディクトの朝食を食べることができる。名古屋駅の改札を出て駅構内にある店に行くと、開店前からすでに行列ができていた。


 店がオープンし窓際の席に座ると、センスの良いユニフォームを着た若い女性の店員さんが注文をとりにきた。普通のトーストや小倉トーストもメニューにあるが、頼んだのはもちろん、お目当てのエッグベネディクトだ。


 注文すると、すぐにセットのラテが運ばれてきた。大きめのカップに注がれたミルクフォームに上に散らばるココアパウダーに、朝からテンションが上がる。一口すすると、ミルクの優しい甘さと、ほろ苦いコーヒーのバランスが絶品だ。飲み物がおいしいと、食べ物への期待も自然と高まる。


 そして、エッグベネディクトがサーブされた。白い四角い陶器の皿にポーチドエッグが載ったマフィンが2つ載り、付け合わせはサラダとフライドポテトだ。ポーチドエッグの載ったマフィンをナイフで切ると、とろとろの半熟の黄身が流れ出し、マフィンが黄色いソースで溢れかえる。


 マフィンを一口大に切って卵に絡めて口に運ぶと、おいしー!!、と心の中で叫んでしまった。


 こんなにおいしい朝食は何年ぶりだろう。最高の朝食だ。『青春18きっぷ』の旅なんてと馬鹿にしていたが、この朝食を食べるだけでも来たかいがあった。まぁ、冷静に考えると朝食と『青春18きっぷ』は関係ないけど。


 朝食を堪能し、ホテルをチェックアウトした私は、リュックを背負って次の目的地へと向かった。

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