第6話




 はい此方、現場の幼女なのじゃ。

 現在、この村を襲っていた盗賊団『黒血の牙』の構成員を、村人協力の元、縛り上げて物干し竿の様に組み上げた吊るし台に吊るしている所じゃ。

 この吊るし台じゃが、村人達が縛り上げている最中に、森に戻ってベヤヤと一緒に切り倒して来た木を材料にパパッと作った物。

 総勢30人近い盗賊団で、吊るし台が3つになってしまったが、村の中央広場に一つ、村の入り口脇に二つ組み立て、それぞれ10人ずつ吊るしている。

 色々と漏らした場合を考え、足元は掘り返し、引き渡すまではこのまま放置の予定じゃ。


「このクソガキ! こんな事してタダで済むと思うんじゃねぇぞ!」


 ムっさんのリーダーが吊るされた状態で喚いているが、覚えている自信はないのう。

 一応、村の数人が近くの町に、捕縛した事と引き渡しの手続きの為、数少ない馬を使って向かう手筈になっておるのじゃ。

 それより、どうもこの村と言うより、この国自体が数年続く凶作で苦しんでいるようじゃった。

 聞けば、どんどん土地が痩せ衰えていき、最終的には実を付けなくなったという。

 取り敢えず、その不作になったという畑に案内してもらい、詳しく状況を確認してみる。


「ふむ、これは酷いのう」


 畑の土地はそれなりに湿っているが、植えられた作物は皆、萎びて力なく地面に寝ていた。

 試しに近くにあったのを一つ引き抜いてみる。

 村長が言うにはカブらしいのだが、本来は膨らんで太くなっているはずの根の部分が全く太くなっておらず、短い根しか出ていなかった。

 連作障害かとも思ったが、聞けば畑は数年単位で寝かせる為、それは無いと言っておった。

 そう考えると、これは確かに異常じゃのう。

 こうなると、問題は土か作物のどっちかじゃろう。


「鑑定」


 鑑定スキルで作物を確認。


___________________________


 名前:カブ

 品質:極低品質

 状態:極端な栄養不足

___________________________


 うむ、ただのカブじゃな。

 続けて畑の土を確認。

 ぉ、コレは……


「のう村長、凶作になる前に畑に何か撒かなかったかの?」


「はて……何分、随分前の事ですから詳しくは何とも……家に記録はあったはずですが……」


「うむ、それじゃすぐに確認して欲しいのじゃ」


 村長を急かして記録を確認させに行かせる。

 この凶作、人為的に引き起こされた可能性が高いのじゃ。

 と言うのも、畑の土に見慣れない物が混ざっておった。


 それが『魔粉』と呼ばれる、『魔石』を砕いて粉にした物。

 これは魔道具などに使用する以外に、使い道がほぼない物であり、畑に混ざっているのはおかしいのじゃ。


「さて、それじゃささっと片付けるかの」


 『創造』スキルで全く新しい魔法を創造する。

 これは一度粉になった魔粉を集め直し、再び一つの魔石として凝縮させる為の魔法じゃ。


「『魔石凝固』!」


 地面に付いた手の平に向かって、畑中から光の粒が集まってくる。

 ゆっくりと地面から手を放していくと、その光の粒が徐々に大きい塊へと融合を始め、やがてそれがどんどん大きくなっていく。

 範囲指定はこの村の畑としたのじゃが、これは予想以上に集まって来ておるの。


 最終的に、ワシの身長とほぼ変わらぬサイズの魔石が出来上がってしまった。

 これはアレじゃの、多分、自然風化して粉になってしまった周囲の魔石の分も混ざった結果じゃろうな。

 この量が畑に撒かれておったら、作物が枯れる前に、魔植物化しておるじゃろうし。

 まぁ流石にこの魔石を村長に見せるのもアレじゃし、これは一応預かっておくとしようかの。


「魔女様、記録を見付ける前に、村の一人が覚えておると言うので連れてまいりました。」


 アイテムボックスに魔石を収納し、畑復活の為にポーションでも作るかと思っておったら、村長がガリガリの若い男を連れて戻って来た。

 その若者に聞くと、いつも来る行商人とは別の行商人が来て、新しい肥料を試して欲しいと言われ、無料でいくつかの家が試す事になり、その肥料を撒いてみた所、最初の一年は豊作になり、皆が残っていた肥料をそれぞれの畑に撒いたのだが、次の年から何故か徐々に収穫量が落ち、今の様に凶作になってしまったのだという。

 その行商人が怪しいのう……

 聞けば、その時の行商人はそれ以来、村に来た事は無く、その後、周囲の村に確認してみると、似たような話を持ち掛けられていたのだという。

 その村でも同じように飛びついて使用していた。

 結果は言うまでも無く、悲惨な状態になっている。


「その肥料を見んと何とも言えんが、その肥料、材料に砕いた魔石を使っとった可能性があるのじゃ」


「その、魔石を使っていたって言いますが、何が問題なんですかな?」


 村長は魔石の事は知っていても、それがどんな問題を引き起こすのかは分かっていないようじゃな。

 ワシは、村長や主だった面々に軽く授業を行う事にした。


 魔石を砕いた魔粉。

 これを畑に撒くと、最初は確かに豊作になるのじゃが、問題はその後。

 その魔粉が土地のエネルギーを奪い、作物が必要とするエネルギーの供給を妨害してしまう。

 その結果、魔粉はエネルギーを吸い続けて力を増し、作物はどんどん不作になってしまうのじゃ。


 これが、魔粉による作物への弊害なのじゃが、実は話していない事がある。

 それが、このまま放置した場合、何が起こるかと言う話なのじゃが……


 長く力を吸い続けた魔粉は、ある程度、力を吸収すると今度はある種の波動を発するようになり、植えた作物が影響を受けるのじゃが、これは豊作になるとかの話ではない。

 ただの作物が、魔石の影響を受けて魔物化してしまうのじゃ。

 そして、これがこの国中で起きているとするなら、このまま放置すると非常にマズい事になるのじゃが、ここの畑に撒かれていた魔粉を見る限り、変異させる程強くなるにはあと2~3年は必要なのじゃ。

 なので、まずは魔粉を取り除く事から始めるとするかの。


 と言っても、やり方は簡単。

 ポーション製作によって、まずはワシ自身に必要なスキルを増やす。

 そして、出来上がった緑色のポーション。

 これをゴクリとの。


_________________________


*『付与エンチャト』スキルを習得しました。

_________________________



 今回はメロン味なのじゃ。

 そして、その後は手持ちの素材からジョウロを製作し、付与スキルで魔粉除去の効果を付与していく。

 コレで魔粉の除去は可能になったハズじゃ。

 魔粉を除去する過程で、溜まっていたエネルギーを放出させる為、土地のエネルギーも僅かだが回復するので、作物もすぐに復活するじゃろう。

 後はこれを増産すればいいのじゃが、流石に一個一個作っていたのではいつまで経っても終わらないのじゃ。

 なので、ここは創造スキルによって新しい魔法を創り出すのじゃ。


「『コピー』なのじゃ!」


 そうして出来上がった魔法によって、一個しかなかったジョウロが見る見るうちに増えていく。

 発動を止めない限り、ワシの無尽蔵のマナによって永久に増え続けるのじゃ。

 と言っても、そろそろやめておかんと、片付けるのも大変じゃしの。


「取り敢えず村長よ、このジョウロが土中の魔粉を無害化してくれる魔道具になっておるのじゃが、まずはこの村で使って欲しいのじゃ」


 最も、この村の畑にあった魔粉はワシが取り除いてしまったが、それは言わんでおくのじゃ。

 そして、使い終わった後は速やかに隣の村に渡し、その村が終わったらまた別の村へと送るように話しておく。

 もし、途中で独占しようとした阿呆が現れたら、直ぐにワシに話が来るようにしておき、独占しようとした村からジョウロは没収する予定じゃ。


 さて、それじゃ畑にこっそりと栄養剤を撒いて山に戻るとするかの。

 まずは、ワシの住処作りからじゃ!



 このジョウロがとんでもない面倒事を運んでくるなど、この時のワシは考えてもいなかった。



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