第二膳 お題『カレーの冷めない距離』
(やっぱり懐かれちゃったか……)
わたしの人柄というよりは、料理のせいなんだろう。
すごくおいしそうに食べていたから。
とにかく先日のお礼なのか、お土産(どこで仕留めたのだろうか?)キジのような鳥を持参で、わざわざ訪ねてきてくれたのだ。
お土産のキジ肉は、後で処理しようと血抜きを兼ねて、浴室に吊るしておいた。
「……まぁ、上がりなよ」
そう言うと嬉しそうにネコ耳がピョコンと跳ね上がり、ボロボロになった古代ローマの剣闘士が履いていたような靴を脱いで部屋の中に入ってくる。
それから少し鼻をひくひくとさせ、何とも言えない笑顔を浮かべる。
だろうね。
部屋の中いっぱいにスパイスの香りが広がっているし。
「今日はカレーを作ったんだよね。良かったら食べてかない?」
ちょっとびっくりしたような表情。
それからすごく内面で葛藤しているのか、やたらと足元と天井で視線を往復させている。
その間にわたしはさっさとカレーの支度を開始する。
先日、少女が目覚めてから気がついたのだが、口がきけないようだ。
わたしの言葉を理解できているが、口から出る声は「ニャー」しかなかった。
どうしようかと困り果てていたが、少女は満面の笑顔でペコリと頭を下げて去っていった。
少女の名前すらわからないままだった。
それから1週間経ち、少女は元気に帰ってきたのだった。
もちろん、食事をねだるつもりで来た事じゃないのは分かってる。
図々しいと思われるのが嫌なのも分かっている。
でもカレーの誘惑に勝てる人間、獣人ですらそうそういない。
「実は作りすぎちゃってさ。口に合えばいいんだけど食べて行ってよ。それにさ、一人で食べるより二人で食べる方がもっとおいしいと思うんだよね」
お腹がグーと鳴る音が『いただきます』の代わりだった……
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