第49話 卒業の日

「やれやれ、案外妃先輩って話すの好きだよな」

「だね。それに牧会長ともなんだかんだ順調そうだし」


 生徒会メンバーが帰ったあと、片付けを終えた桐生達は部屋に戻ってベッドに腰かけて二人で一息。


「まあ、こういうのも悪くないって、自然と思えるのも不思議な話だな」

「蓮は随分変わったよね。初めてあった頃なんて、なんかみんな敵ってかんじだったし」

「実際みんな敵だったよ。それに、安藤がいい奴だったら俺はこうはなってない。皮肉な話だ」

「ううん、いつか桐生君のよさをわかってくれる人は現れたと思うよ。それこそ、妃先輩だって桐生君のこと好きだったかもだし」

「それはないって。あんな気の強い人、俺はどっちにしても無理だし」

「あはは、そうかもね。でも、私はちょっと意識してたけど。桐生君って、綺麗な人好きそうだし」

「きれいな人は誰だって、みんな好きなもんだろ。でも、その中で唯一誰か一人に不思議と心惹かれる。人間ってホント不思議だよ」

「……私のこと好きになってくれたのって、やっぱり一緒にいた時間が長かったから?」

「さあ、どうだろ。思えば、初めて千雪を助けた時だって、気になってたからなのかもな」

「じゃあ、私と一緒だ。初めて話したときからずっと、蓮のことが気になってた」

「物好きだよな、ほんと」

「蓮こそ。私みたいな女って、結構煙たがられるんだよ」

「知ってるよ。だから俺も物好きだったんだよ」

「それほめてないんだけどー」

「はは、お互い様だろ」

「うん、そだね。ね、クリスマスだね」

「なんもない夜だけどな。寒いし、寝よっか」

「だね。あたためてね」

「……うん」


 二人にとって、初めて誰かと過ごすクリスマスはこうして終わった。


 ただ、桐生はこの日を特別な一日だとは思わなかった。

 明日も、明後日も、ずっと加佐見と一緒にいる。

 その毎日が特別で、その特別な日々を積み重ねていればまた来年、クリスマスはやってくる。


 二人にとってはこうして過ごす毎日が特別で。

 その一日をかみしめるように抱き合って眠る二人の日々は淡々と過ぎていく。


 そして。


 卒業式の日が、やってきた。



「先輩、卒業おめでとうございます」


 今日は三年生の卒業式。

 とはいえ学生たちにとっては式本番よりそのあとに同級生や在校生たちと別れを惜しんで和気あいあいとする場が本番だ。


 体育館から出てきた妃に、桐生と加佐見、牧と神原が花束を渡す。


「ああ、みんなありがとう。あいにく同級生に友人が少なくてな。祝ってくれて嬉しいよ」

「先輩、案外とっつきにくいタイプですからね」

「はは、言うな。しかしそれでは社会人として不安だからな。桐生君のような柔軟性を身に着けるとするよ」


 そんな話をしている時、陰から誰かが桐生達を見ている気配がした。

 妃が振り向くと、怯えた様子でこっちを見る安藤の姿があった。


 妃は、すかさずその方向へ足を向ける。


「なんだ、安藤か。そう怯えるな」

「……」

「安藤、私たちとお前はおそらく、一生恨み合う仲だ。私たちも君を心の底から許せないように、君の人生も家もめちゃくちゃにした私たちを、君が許す道理がない。ただ、それでももし互いに歩み寄ることができれば、憎しみの連鎖は断ち切れるやもしれん。そう思って君を、再びこの学校に呼んだ」

「……わかりますよ、いいたいことは。それに、桐生達に俺のことを頼んだのも妃会長なんでしょ?」

「もう会長ではない。まあ、桐生と君が仲良くなんて、もっと無理な相談なんだろうが。それでも君が一生日陰で過ごす理由もない。被害者たちに詫びて、悔いて、禊を済ませたら君も青春を謳歌したらいい」

「……俺がやってきたことは、いくら謝っても済むもんじゃありませんよ」

「その気持ちは大事だが、いつまでも後ろ向きな男子はモテないぞ。じゃあ」


 妃はぽんぽんと安藤の肩を叩いて、桐生達のところへ戻ってくる。


「すまない、待たせた」

「安藤と、何を?」

「いや、世間話だ。安藤もきっと、この学校の為に尽力してくれることだろう」

「安藤が? それはないと思いますが」

「人は変われる。それを一番よく知っているのは桐生君、君自身だろう?」

「……まあ、そうですが」

「私も、社会に出たら変わるだろう。今までのように学生気分ではいられない。さて、学生最後の日は愛するものと過ごしたいからな。牧と二人にさせてくれ」

「ええ、わかりました。本当に、おめでとうございます」


 頭を下げて妃と牧が去るのを見送る。

 そして残された桐生と加佐見、そして神原はその姿が遠くなるまで見送って。


 やがて、卒業式の余韻も消えていく。


 自然と散っていく人だかりに流されるように、桐生達もその場を去っていった。




おしらせ


次回最終回です。


最後まで、よろしくお願いいたします。

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