我等、はみだしテイカーズ6!FINAL-QUEST

えいみー

プロローグ/前回のあらすじ

ダンジョンに生息するモンスターの生態を紐解いてゆくと、彼等がその故郷である異世界において、どのような生態系を築いていたかのおおまかなシミュレーションができる。

最初から魔力マナの存在する環境で進化・発展をしてきたという違いこそあれど、彼等もまた水と炭素で構成された生物である事には変わらない。


それに、干渉できない場所の自然のシミュレーションという点では、過去の絶滅した生物………恐竜に代表される古生物学で、既に前例がある。

応用できる技術も、経験も、十分にあったのだ。



………さて。


研究が進み、モンスターや魔力、ダンジョンの存在した異世界の環境が次々と明らかになるに連れて、あるモンスターの存在が明らかになってきた。


何故、モンスターが魔力の力を手にいれる必要があったのか。

何故、異世界文明がエルフやドッペルゲンガーに代表される、人造モンスターを作る技術を手にいれる必要があったのか。


それは、そのモンスターに対抗する為だ。


異世界の生態系の頂点に君臨する、モンスター達の王………いや、もはやモンスターという陳腐な言葉で表現はできないだろう。


異世界を支配する、文字通りの「神」。

モンスター生態学の分野においては、それまでのモンスターやダンジョンに関する様々な事象が、ファンタジーRPGや創作物を由来として名付けられていた事から、こう仮称されている。



魔王級生物ロード」と。




………東京の、とある大学。

一人の教授が、その研究室で佇んでいた。


偏狭の大学の、偏狭の研究室に似合う、くたびれた男だ。

古き良き時代の「窓際族」という名前が似合いそうな、白衣を着ていなければ教授とすら解らない人物。


名を「徳部修一トクベ・シュウイチ」。

彼は、魔力関連………モンスターやダンジョンに関する研究を行っていた。


テイカーは勿論、ダンジョンやモンスターに対しても忌諱感情のある日本において、トクベの研究は一種のタブーのような扱いを受けていた。


その為、研究費も中々降りず、日陰者のような日々を過ごしていた。



が、あの日神沢ロックホールに現れた、本来の難易度的に存在しないハズの、スケルトンの大型種。


おまけに、同族意外のモンスターと、生体磁石による合体を行うというイレギュラーな個体。


その事件が、長らく日陰者だった彼等に、ようやくスポットライトを当てた。


………と言うよりは、現在の日本でモンスターの研究をやっているのが彼等しか居ない為、彼等を動かすしか無かったのだが。



彼は、仲間の研究員と共に、神沢ロックホールの調査を続けた。

さらに調べてゆくと、スケルトンのみならず、ゴブリンやスライムといった生態系の下層に位置するモンスターにも、細胞レベルでの異常が見つかった。


そして極めつけが。



「………本当に、何なんだ?この殻は」



あの時、神沢ロックホールに現れた横穴で回収された、正体不明の卵の殻。

そして、謎の超巨大モンスターの骨格。


卵に付着していた細胞片を解析するも、それまで確認されたどのモンスターの細胞とも一致しなかった。

唯一一致したのが、殻が落ちていたすぐ側にあった、謎の骨格のみ。


その骨格についても、化石化している訳ではなく、単なる白骨化だ。

つまり、ほんの最近まであの超巨大モンスターは生存し、あの町の地底で息を潜めていた事になる。

そう考えると、トクベはゾッとした。


そりゃそうだ、自分の家の地下に推定80mはある巨大モンスターが生きた状態で埋まっていたら、誰だって怖い。


さらに、もう一つ。

卵の殻があるという事は、あのモンスターはここで出産し、卵から子供が生まれているという事だ。

なら、その子供はどこに行ったのか?



「………魔王、か………」



トクベの脳裏に浮かぶのは、その魔王級生物の事。

まさか、あの超巨大モンスターこそ、それではないのか?

考えるに考えるも、事実がはっきりしない以上は仮説の域を出ず、ただただ時間だけが流れていった。






………………






西暦1999年。


かの、ノストラダムスの予言は当たった。


突如、地球全土を覆った謎のオーロラと、磁気嵐。


それは、地球の衛星軌道上に出現した「穴」………時空の裂け目とでも言える場所から、地球に広がった「魔力マナ」と呼ばれる異世界のエネルギー物質による物だった。


後に「アンゴルモア・ショック」と呼ばれる大異変。

それにより、地球は変貌した。


魔力と共に地球に現れた、「モンスター」と俗称される、異世界を由来とする狂暴な不明生物達。

魔力による汚染により、異世界の環境が再現されてしまった領域「ダンジョン」。


突如現れた恐るべき「敵」により、多くの人々が犠牲になり、人類は危機に立たされた。



だが、もたらされたのは「敵」ばかりではなかった。


それから一年して、いくつかのモンスターのように、魔力を自らの力「魔法」として行使する人間が現れだしたのだ。

それはやがて人類全体に広がり、モンスターに対する対抗策として重宝された。


モンスターへの対抗策が生まれると同時に、様々な事が明らかになってきた。


それは魔力が、ダンジョン発生の媒体になる汚染物質や、魔法という超能力の元という以外に、

使い用によっては石油や原子力をも上回る、新しいエネルギー資源としての側面を持っていた事。



やがて、モンスターの討伐やダンジョンの調査。

ダンジョン内部に発生した、様々な資源の採掘を生業にする人々が現れた。


かつてのファンタジーRPGの勇者達のような活躍を見せる彼等は、いつしか「ダンジョンテイカー」………略して「テイカー」とも呼ばれるようになった。


それに続くように、テイカーの育成の為の機関や、専用の武器や防具を作る会社も生まれた。



やがて、世界の危機はイベントと仕事に変わった。


いくつかの危険度の低いダンジョンは、テイカー入門の為の訓練所や、テイカーを疑似体験する為のベンチャー施設に変わった。


恐れられていたモンスター達も何種類かは捕獲され、動物園や水族館で………厳重な注意の元ではあるが、見る事が出来る。


テイカー達も、トップクラスの者達はロックミュージシャンやトップアスリート並みの人気を博し、称賛を浴びた。



世界がモンスターに、ダンジョンに、テイカー達に熱狂していた。







………こういう物が一番好きそうな、ある国を除いて。






………………






ある所に、一人の女がいた。


名を、スカーレット・ヘカテリーナ。

アメリカのテイカーパーティー、ザ・ブレイブのエースとして活躍した、炎の大剣イフリートを振るう、女剣士ソーディアン


しかし彼女のテイカーとしての姿である、そのボンテージ同然の格好は今の社会に相応しくないとして、彼女はザ・ブレイブより追放されてしまった。



ある所に、一人の少年がいた。


名を、秋山東アキヤマ・アズマ

日本の、とある地方都市に住んでいる、どこにでもいる気の弱い少年だ。


学校ではいじめられ、家では虐待同然の扱いをされ、誰も頼れる者がいない。

孤独の中で苦しみ、悲しみながら生きてきた。



そんな二人が。

様々な偶然が重なり、日本のとあるダンジョンで、二人は出会った。


方や、パーティーから追放されたはみだし者。

方や、学校や社会から弾き出されたはみだし者。

疎外感を持つ者同士、引かれあうものもあった、のかも知れない。



スカーレットと出会い、アズマは自らの中にあったテイカーの才能に目覚めた。

スカーレットもまた、アズマという相棒兼教え子と共に、日本という新しいステージで戦えた。


はみだし者同士が手を取り合った結果、二人は閉塞した過去から脱し、新しい道を手に入れた。

そして彼等は、自らをこう名乗った。

「はみだしテイカーズ」と。






………………






そして、二人の冒険者テイカーの物語は、今まさに最後のステージを迎えようとしている。

最大にして最強の敵………「魔王」の手によって。

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