世界神話考

遠蛮長恨歌

第1話 神話傾倒

 神話が好きです。自分が熱中したものとしては歴史と軍略、名将論、ほかには空手と自転車なんてものがありますが、一番つきあいが長いのは神話学かもしれません。いや、正式な学問をやっているわけではないのでもっと単純に神話遊びとか、そういう言い方をするのが至当かと思いますが、ともかく神話とのつきあいは小学校3、4年生、40年近く前までさかのぼります。理由は当時ハマっていたゲームブックの影響で、「聖書くらい読んでないと西洋の思考論法がわからん!」という理由から旧約聖書を買ったのですが……あれのインパクトが最悪だったのですよ。ことあるごとに人類を抹殺しようとするえらく橋梁で矮小な「唯一絶対の神(笑)」。これが最初はもう腹立たしいだけのクソにしか思えなかったんですが、時間をおいてよくよく考えるとなんだか別の意図があってわざと神を卑小化しているようにも思えます。そう考えると楽しくなってきたわけですよ。


 聖書の次は当然にというか順当に、ギリシア神話。最初に手にしたテキストはブルフィンチの「ギリシア・ローマ神話」で今にして思うとかなりアラの目立つ本(とくに付録のインド神話の部分)なのですが、最初だったのでそういうこともわからず。基本的に全部信じ込む感覚で吸収していきました。あの当時、あの薄い本にギリシア神話のパンテオンすべてが記述してあると思ったものですが当然そういうことはなく、ギリシア神話熱はなんだかあまり盛り上がらなかったのでしばらくそっち方面への知識欲は断たれます。神話というものへの興味が断たれることはなかったんですが。


 中学に入ったころに「世界三大叙事詩(いまはこの定義が見直されているようですが)」という言葉を耳にするようになりまして。それがインドの「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」アイヌの「カムイ・ユーカラ」であると調べた時これはぜひ読まねばと意欲に燃えました。しかし、なかなか機会に恵まれず。マハーバーラタは当時山際素男さんのものしかなく、これが1冊9800円(9巻)とかしたので中学生の小遣いでは手が出ない。しばらくして高校の頃に第三レグルス文庫の抄訳「ラーマーヤナ」と「マハーバーラタ」を読みましたがやはり物足りませんでした。さらに20代のころに上村勝彦教授の原典訳マハーバーラタというのが刊行されましたが、痛恨の上村氏病死で8巻にして挫折。


 インド神話と叙事詩の話をすると長くなりますね。ちょっと戻りましてまた中学の時、いまはなき紀伊国屋天神店で「ポポル・ヴフ」という文庫本を買いました。マヤ・インカの神話です。これを買えたのは今にして思うと僥倖でした。もしさらに「チラム・バラム」も買えてたら最高でしたがそれは無理でした。当時どこの神話がどんなタイトルでどこの書店から出版されてるなんて知りませんでしたからね。


 高校に入り図書館で「三国志」「水滸伝」などの中国歴史ものを読み漁る日々が続きます。三国志に至っては高校入学から卒業までの4年(定時制なので)で8から9回も読み通しました。学校の図書館には神話の本がなかったので戦記物に傾きましたが、この間も外では神話の本を買いあさります。ガスターの「世界最古の物語(矢島文雄訳)」という本からメソポタミアに興味を移し、しかしメソポタミア関連の本というのは非常に少ないころでしたが確か西暦2000年記念出版で三笠宮親王の「古代メソポタミアの神々」という本に出合います。たぶん今でもメソポタミアのパンテオンを調べるにあたっては一番の名著だと思います。一度古本屋に売りましたが去年また買い戻しました。


 メソポタミアと並行で興味を寄せることになったのがケルトと北欧という、似た民族の島の民、陸の民による神話。この二つの神話は言葉の響きが非常にかっこよく感じる、というきわめて重要なことがあり、以後の自分の創作にもケルト古語や古スカンジナビア語の名前が一時期氾濫しました。今でも拙作「くろてん」の主人公新羅辰馬の本名はノイシュ・ウシュナハ、ケルト・アルスター神話の「黒髪のノイシュ」からとっています。


 さらに高校時代は定時だったので働きます。働いたお金は本を買いますが、この当時中国の歴史書が欲しくなり漢籍専門店に生まれて初めて入店、その後10年ばかしここにお世話になりますが、このころに中国の神話やモンゴルの神話という本もここで買いました。


 その後エジプト神話、日本神話、ネイティブ・アメリカンの神話、アボリジニ神話、アフリカ神話などを読み漁りまして、一度27歳の時に交通事故で挫折、その後44歳でまた交通事故に遭って就労能力は失いましたが神話への渇望はやまず、今現在、ただ楽しむだけではなくフレイザーやタイラー、デュメジルやレヴィといったあたりの著作……いわゆる「神話学」というところに足を突っ込みつつあるのが遠蛮の神話遍歴です。ここでなぜ神話なのかと問われる方もいるかと思います。役に立つのかと。おなじ質問としてなぜ歴史を学ぶかというのもあるでしょうし、答えは同じなので一緒に答えます。それが人間の英知の集積であり、万事における身の処し方を示してくれる羅針盤であり、人生を豊かにしてくれる鉱脈であって、なにより単純におもしろいから、わたしは神話と歴史を学んでいますと。


 本日はこれにて。次回から世界各国の神話について、まずは人類文明発祥の地カルデアことメソポタミアから具体的なところをやっていきます。それでは、ここまでお読みいただき大変ありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る