殺承人ナレーター 


 熊のようにのっそりとした老人はこの世に生きているのか死んでいるのかすらさっぱりわからないで、いつからか空を押しつぶしそうな禍々しい廃色の空を眺めていた。丘の上にある、遠い昔に崩れた建物の瓦礫に座る。彼の渇ききった頬と白髪混じりの毛並みを生暖かい風がそっと、撫でた。彼は無意識に太い幹のような枯れた手で顔を、上書きする様に幾度となく撫で返した。顔を伏せて何やら考え事や思い出…いや、それは焼きついて煤けるほどにむせかえる記憶といった方が正しいか。堂々巡りしていた。いつもそうして気が済むと、その幾千の戦いを経たであろう巨体を持ち上げて丘の下の小屋に戻った。


老人ヴォーラドス


 ……………… (薪を竈門にくべて椅子に揺られる、鼻息で深呼吸)


ナレーター 


 彼に答えはなく、終着もなかった。ただ、いつも時の流れに身を任せているだけだった。

 何も得るものはなく、得る必要もない。

 濁りきった目には焔が爛々と浮かび上がる。

 渇いた火の粉の音だけがこだましている。

 そんな老人を俺は見るのが好きだった。

 悲劇しあわせがやってくるまでは。

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