第30話 アラート

 この船の動力源は多重炉心大型魔導炉。端的に説明すると物凄くデカくて、とてつもないパワーを生み出すモンスターエンジン。といった感じの物だ。


 その膨大なエネルギーは巨大な船の推力をうみだすだけには留まらない、甲板上の商業施設の電力をもまかなっている。


『バカデケェ楔石搭載してっから、ザコ魔物は近づくことすらできネェ』


 この船に搭載されている楔石は、エル・ファミル等の大都市に設置されているのと同じくらい強力な楔石。


 もちろん稼働させるには膨大なエーテル供給が必要になるのだが、それがまったく問題ないレベルで動力から魔力供給が可能なようだ。


「さすがは元空母ね。二百年前に造られた物とは思えないわ」

『機能はだいぶ削られてるみたいだが、それでもすげぇ』


 ここ最近は疲れることが多かった。たまには、こんな感じでゆっくりできる日があっても悪くはないだろう。


 もちろん、こうやってくつろぎながらも海竜討伐は頭の隅っこには置いている。いつ襲撃されても対応できるように準備もしている。


(でも、オフの時は思いっきりのんびりしなきゃ、損よね)


 私は、ハンモックに揺られながらレモネードで喉を潤す。そして、太陽を掴むように手をかざす。


「空が青い。太陽ってまぶしいわね」

『そもそも裸眼で見るもんじゃネェからな』


 至極まっとうなツッコミを入れられた。まあ、そんな意味不明なことを言いたくなるということは、知らず知らず浮ついた気分になっているのかもしれない。


「正直、子供の頃は海を見られる日が来るなんて想像していなかったから」


 私の産まれたカーラの里は、大陸の内陸部。海とは全く縁のない土地だった。そんな里で生れ育った私としては、そもそも『海』というのがどういう物か想像が難しかったし、せいぜいは大きな湖というような理解で留まっていた。


(それでも里で暮らす上では何も困らなかったしね)


 海は自分には縁がない物だと思っていたし里の外の出来事は私とは全く関係のないこと。子供ながらに、自分の人生は里のなかで終わるのだろうと思っていたし。里のみんなも幸せそうだったので、そういった生き方に疑問を抱かなかった。


(だけど人生、何が起こるか分からないわね……)


 今は子供の頃に思い描いていたのとは真逆の人生を歩んでいる。黒竜騎士として人に災いをもたらす竜を探すため、国から国へ、都市から都市へと渡り歩き、それこそ大陸すら横断しながら、あちこちを彷徨い歩いている。


 そんなことを考えていたら、けたたましい警報が響き渡る。


(……これは、非常事態警報。ということは……)


 突如船内が慌ただしい雰囲気に包まれる。何かしらのアクシデントが起こったようだ。

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