第25話 変なおじさん

 リューを岩場に突き刺したまま、ふらふらと裏通りのお店までやって来た。何となく怪しげなお店だな、とは思ったが話くらいは聞いてみるかと覚悟を決める。


「ところで、ここは何をするお店ですか?」

「あなた様のように理想的なプロポーションをした女性を愛好する紳士が癒やしを求め集う、秘密の社交場です」

「はぁ……」


 私の身体的な成長は十代前半で止まっている。ちょっとだけ小さいというレベルではないと思うのだが……。


「……こほんっ。ご納得いただけていないようですので、もう少し直接的な言葉で説明させて頂きます。小柄な女性しか愛せない業深き者が集う秘密の楽園。当店の会員は厳しい審査を通った一流の者たちだけですので、ご安心を」


 お店の外観は、裏通りによくあるボロ家のようだったが、中はかなり手入れがされており、調度品も高そうな物が並んでいることから、儲かっているのは事実のようだ。


「でも怪しいですよね?」


 思わず、心の声を出してしまった。


「いえいえ。まったく怪しくありません」


 男は汗を拭いながら弁解する。


「本当ですか?」

「は、はい。全く怪しくありません。完全にセ、セーフです」


(……うーん。ここまで怪しくないと言われると、逆に怪しくない気もしてくる。それに、いかにも怪しいお店は逆に安全だったりするものだ。そう、前向きに考えよう。……お金もないしね!)


 そんなことを考えていたら金貨十枚を前金として渡された。


「えっと、まだ何もしてないんですけど、こんなにもらっても良いんですか?」

「はい。あくまで前金です。今日いらっしゃるお客様は特別な方ですので。もし、お客様を満足させることができたら、前金の二倍をのちほど報酬としてお支払いします」


 二倍……。となると前金とあわせて金貨三十枚!


(最高級の蒸気車両が買える!)


 これだけ貰えれば、聖王国への運賃どころか、魔石も買い放題。聖王国でもお金があれば何かと便利だろう。背に腹は代えられない。聖王国行きの陸上輸送艦に乗るためにはお金が必要だ。


「ところで、私は何をすれば良いんですか?」

「これからいらっしゃる男性を癒やして頂ければと……」


「はぁ、治癒ですか。簡単な魔法は使えますが、専門ではありませんよ?」

「いえいえ。外傷ではありません。強いていうならば心の傷、でしょうか。詳しい話はお客様のプライバシーに関わりますので、直接お聞きになって下さい」



   ◇



 私は店長に案内された、個室で制服に着替える。


「うぅ……。これ、短すぎない? こんなの服って呼べない」


 とんでもなく丈の短いメイド服。ここの店長いわく、このとんでもなく丈の短いメイド服がここの制服らしい。海岸都市リヴィアの伝統的な民族衣装で、最も格の高い服とのこと。


(……本当かなぁ?)


 そんな自然な疑問が頭をよぎったが、考えないことにした。


「民族衣装だもんね。何も知らないよそ者が文句を言ったら失礼だよね」


 民族衣装と言うのは外から訪れた者には奇異に見える物だ。


(そういえば、パパとママが"なかよし"をする時に同じような服を着ていたっけ)


 あれもカーラの里の伝統衣装だったのかもしれない。信じよう。店長、そして……パパとママを。

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