りゅうごろしようじょ~見た目が幼女で誰も信じてくれないので【冒険者】のふりしていますが本当は【黒竜騎士】です。【竜を食べるほど強くなるユニークスキル】で最強に至り、全ての悪しき竜を滅します。包丁で。~

くま猫

第1話 黒竜騎士なのに

「ふぅ。本当大きな街。ここなら竜絡みの話も聞けるかしら」


 ここは交易都市エル・ファミル。自由都市同盟の中でも最大規模の交易都市。この街はいろんな者が行き交う街で、交易のために訪れる冒険者も多い。


「お嬢ちゃん。ここは子供の遊び場じゃないんだ。分かるかな?」

「知ってます。冒険者組合ですよね。仕事を探しに来ました」


 私がいま訪れているのはこの街の組合と呼ばれる施設だ。一言でいえば、冒険者に仕事を斡旋してくれる場所。それが、冒険者組合だ。


(まあ、素性の知れない流れ者にも仕事を斡旋してくれるくらいだ。ラクで安全な仕事はないんだけどね)


 もとより、冒険者になるような物は安全で楽な仕事は求めていない。一応、需要と供給の釣り合いは取れてはいるのだが……。


 組合で引き受けることができる依頼内容は多岐にわたる。薬草の採集、魔物討伐、遠方への荷物の配達、期間限定の護衛……。


 リスクが高いほど得られる報酬も大きくなる。命の危険が伴うような魔物討伐なんかは最も報酬が期待できる。


 もちろん、それも討伐難易度次第ではあるが。 かくいう私もその冒険者の一人。 自分で言うのはちょっと、いや……かなり恥ずかしいが、客観的な評価をするなら、私はけっこー、いや……かなり腕が立つ方だ。


 普段は面倒事を避けるために素性を伏せてはいるが、私はこの世界でも最強の一角と名高い黒竜騎士。――リッシュタニア・カーラ・ドラグニルであるっ!


(――決まったっ)


 ドヤァ……。と、おじさんに向かって決め顔を決めてみた。なんというか、哀れみの目で見られてしまった。こほんっ。自己紹介はここまでにしよう。


 私についての細かな話は、また別の機会に。まあ、最強の一角にも数えられている一人なので、戦闘は得意だ。基本的には組合の魔物討伐クエスト程度ならソロでも余裕。だというのに……。


「あのぉ、私冒険者で。そのっ、結構な腕自慢で、魔物討伐とか得意なんですけど……」

「いまは子供たちのなかでは冒険者ごっこが流行っているのかな?」


 おじちゃんの子供の頃にもね……。等という自分語りが始まったので、割愛だ。私を子供扱いするのはある程度仕方ない面もある。というか、理屈ではわかるのだ。私もこのおじさんの立場なら同じような反応をしていたかもしれない。


(……腹立たしいことではあるのだけど)


 私がこのような対応を取られる理由は、単純に容姿のせいだ。 詳細は割愛するが、とある事情で私の見た目は十代前半で止まっている。


 簡単に言うと、解呪不可能な呪詛のような物と思って頂ければ間違いない。容姿が十代前半の女の子が一人で組合に行ったらどういう反応をされるか。


 まあ、ご覧の有り様といった感じだ。とは言っても、こちらも仕事がなければ、食費も稼げず飢えて死ぬ。


 世の中金。……いや、さすがにそこまでは思わないが、やはりある程度だ。いろいろとあれやこれやと説得を試みても、初見で真剣に取り合ってもらえることはまずない。


「ごめんね。おじちゃん仕事戻らなきゃ。お嬢ちゃん、冒険者ごっこの続きお友達とね。そうそう。十年経ってもまだ興味あったら、その時はお話を聞いてあげるからね。気をつけて帰るんだよ」


 そんなこんなで飴玉を貰って、返された。門前払いを食らうのは初めての経験ではない。 というか、初見で冒険者扱いされたことは一度も……。いや、……実は一度はあったのだ。


(まあ、児童売買を仕事にするような外道組織だったんだけどね……)


 結論だけ話そう。その組織は私が叩き潰した。完膚なきまでに。 一応、その程度の腕は立つということだ。

「はぁ……。また断られた」


『ヒヒッ。おめぇ、これで何敗めだァ?』

「うるさいわね。そんなの覚えてるわけないじゃない」

『ギャハッ。我はちゃーんと覚えてるゼッ! 記念すべき百回目だァッ』


 こいつは世にもめずらしい喋る大剣、竜殺し包丁。いちいちフルで呼ぶのが面倒なので、私は『リュー』と呼んでいる。とにかく口が悪いのが特徴だ。あと、性格も悪い。


「私が働いているのは、あんたの食費のためって理由もあるんですけど?」

『いやまぁ、小娘には感謝してるよ。魔石の件は。でも、我も一応働いてなくネ?』

「そりゃまぁ。……そうだけど」


 確かに、リューも私の武器として役立っているのだから、働いているといえば……まあ、反論はできない面はある。


 ……事実、私がソロで冒険者を続けられているのは竜殺し包丁という非常に強力な武器を持っているからという理由も大きい。


『はぁ、魔石魔石。魔石が食いてぇッ。いや、そろっとガチで飢え死にするぜ? つーか、我が最後に魔石食ったのいつだったか思い出せねぇ』

「いや、あんた今朝食べてたでしょ」


『チッ。さすがに覚えてたか。小娘なら騙せると思ったんだがナァ。ヒヒッ』


 まあ、定期的に魔石を摂取しないと機能停止するというのは事実のようだ。無機物に『飢え』という感覚があるのかは分からないが、本人が言っているのだから信じるしかあるまい。


「ああ、もう。わかってるわよ。……わかってるんだけどっ!」


 くぅーっとおなかが鳴る。実は、私もなかなか仕事にありつけないせいで、最近は満足に食事を取れていないというのが現状だ。


『いやその、スマン。小娘も随分と食ってねぇーもんなァ……』


 リューが悪態をつかないのはめずらしい。こいつはこいつなりに気をつかっているのかもしれない。


「リュー、こうなったら足で探すわよ、仕事」


 こうなったらどんな仕事でも引き受けよう。組合からの仕事とか贅沢を言っている場合ではない。皿洗いでもどぶさらいでも何でもする覚悟だ。そんなことを考えながら街の雑踏のなかに溶け込むのであった。

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