第31話「妹のデタラメな配信」
「こんばんわー! リスナーのみんなー! 今日は私とお兄ちゃんのドキドキイベントを紹介するよー!」
聞こえてないつもりなんだろうなあ……しかしまるっと聞こえている茜の部屋からの配信ボイスにどうしたらいいのか考えながら面倒くさくなって放置をするべきだろうかと思えてきた。アイツに何を言ったって聞くはずがないのだから放置しておけばいいのだろう。しかしそこで昔の偉い人がいった『愛情の反対は憎悪ではなく無関心』という言葉が脳裏に浮かんだので声をかけようかと思ったが、配信中に巻き込まれるのはマズい。
少し考えてから俺は壁をドンと殴った。向こうの声が途端にトーンダウンしてだんまりを決め込んだ様子だ。一安心してコーヒーを飲みながら茜にどういったものか悩んでいると配信が再び小さめの音声で始まったようでBGMが聞こえるかどうかの音量で鳴り始めた。俺は配信についてはあとで問い詰めるとして、自分の部屋にある音が出そうなものを片っ端から停止していった。スマートスピーカーをミュートにし、スマホをサイレントモードにして、PCもミュートしておいた。これで俺の生活音が向こうの配信に乗ることはないだろう。
平日の夜から何をやってるんだ……等と呆れもしたのだが俺は気にせず寝ることにした。配信は苦手なので俺の情報が漏れることがあってはならない。俺の情報が載らなければ茜だけの問題におさまる。俺が問題を抱えることにはならない。深く静かに隣の部屋で就寝の準備を始めた。
「ハロー! 私、アフターグロウ! 皆の妹だよ! よろしくね!」
胡乱な放送が漏れ聞こえてきてさっぱり眠れそうもない。次第にゲーム実況になったらしく、『今日はギャルゲーを始めるよー! もちろん妹しかヒロインがいないやつね!」
お前は本当にいいのか? 妹が妹ゲーをやるって需要からしてもニッチにもほどがあると思うのだが……そんな心配は他所に自由に発言をしている。妹がプレイするのは作者だって想定外なんじゃないだろうかと思う。気にせず声が聞こえてくる。
「始めはこの『リンちゃん』から攻略しましょうかね! ネタバレコメントは容赦なくキックするのでよろしく!」
そう言ってゲーム実況が始まった。この際妹がどんなゲームをしているのかはどうでもいいが、それがこちらへ丸聞こえなのは勘弁していただけないだろうか? 配信中なのであまり壁ドンはしたくない。しかし眠ることは難しい。その理由はうるさいから等では決してなく、ただ単に実況ボイスがやけに意味深な匂わせをしていることにつきる。
「おっと、この妹はこの周回では攻略しないので無視ですね」
どうやら茜も妹なら何でもいいという節操のない考えでは無いらしい。フリーダムに見える行動でも何か指向性を持っているらしい。それについてはいけないのだが、細かいプレイしているゲームのボイスと、実況している声がそこそこ大きく聞こえてくる。
「やはりHDDを積んでいるとディスク交換がなくて楽ですね。次世代機バンザイです」
ゲーム実況がHDDを積んで快適になったことに感謝している様子だった。ディスクメディアだと実況するときに延々ロード時間を流す必要があるからな。色々やれば誤魔化すことはできるがコンプライアンス的にアウトだ。そこを踏み越えないところを聞くに違法行為はしないと決めているようだ。
「ふひひひ……このシノちゃんって可愛いですね……私の妹に欲しいです」
まともな放送なら切り抜きがアップロードされることになるだろう発言をしている。登録者の人数にもよるが、過激な発言は切り抜かれやすい。いい感じに燃える発言をするんじゃないかと端で聞いているだけでも不安になる。
「それじゃスパチャ読み上げまーす」
『はいはい、『なんでお兄ちゃんが好きなのか?』ですか……愛ですね、それ以外何も要らない』
『『アフターグロウちゃんのお兄ちゃんが羨ましい』? 妹の道も一歩から、まずは義理の妹ができるように頑張ってみてはどうでしょうか」
そんな好き放題にSAN値が下がるようなスパチャ読みが進んでいく。スパチャを読むにしてもリスナーが随分と偏った性癖を持っている連中だと察することができる。俺が言うのもなんだがもうちょっと真面目に生きることをオススメしたい。
『はーい、今日の配信はそろそろおしまいです! おやすみお兄ちゃん!』
そしてようやくその気になってしょうがない配信は終わったようだ。勘弁して欲しいのだがコイツにはネットに顔をさらすリスクを考えていないのだろうか? まあアバター用意しているんだろうけどさ……
俺は家庭内で好き放題配信されないように『聞こえてるぞー!』と壁越しに声を上げる、ヒャウ!? っという驚きの声が上がりきちんと釘を刺せたようでなによりだな……
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