第14話 シュマルカ神

「オレ達はそれぞれに違うキッカケでこの世界に招かれたようなんだがな」

 ゴローは左の肩を檻にもたれさせるような姿勢をとって話し始めた。

「下手に嘘をついてその槍でぶっ刺されてもかなわないし、ま、オレ自身の頭の中を整理するにもいい機会だ。正直に話をするよ、スレイさん。オレの仲間が言った事と食い違う事があったらオレの話を止めて質問してくれても構わない……、が、何から話をするべきかな」

 ゴローはオーク兵の持つ槍に目をやりながら話す。

「そうだな。では、問おう。ゴローくん、キミはニホンで死んだのか?」

 スレイはゴローに話のとっかかりを与える。

「あぁ。まずはそこからか。そうだな。確かにそこからがいいかもな。仲間の中には日本での死を自覚しないままにこちらへ呼ばれた者もいるらしいが、オレはそうだ。日本で死んだ。海釣りからの帰り道に足を滑らして死んだんだ。マヌケな話さ」

「死はいつでも突然だ」

 スレイは静かに相槌を打つ。

「確かに、そうだな。用意された死に従い淡々と進むなんて事は出来やしない……、でも、あの女神なら、オレの足を滑らせるコケなんかを岩場に突然に出現させるくらいやりそうではある」

「女神……」

「あぁ。海に落ちて息が出来なくて苦しんで、ってその後に、気が付いたらオレの目の前にはアタマの悪そうな、軽薄を絵に書いたような女がいた。なんて言ったかな。しゅ、……そうそう、ソイツはシュマルカと名乗った。女神さまなんだと」

「ふむ。シュマルカ、か」

 スレイはそう呟きながらバルバスに目をやる。バルバスもスレイに一瞬目を向けたが、記帳に勤しんでいる。

「シュマルカっていう自称女神はオレに言った。『不幸な事故であなたは死んでしまったけど、聡明で徳の高いあなたを必要としている世界があるの。元の世界で生き返らせる事はできないけど、違う世界に行って、その世界を救ってみない?』ってな」

「そんな事を言われて、簡単に受け入れられるものなのか?」

「まさか。死んだら死んだで仕方がないけどさ、『世界を救ってみない?』ってなんだよ、その軽さ!って思ったよ」

 ゴローは吐き捨てるように言った。

「しかし、キミたちはその女神の提案を受け入れて、この世界に来た。そうなのだろう?ゴローくん、キミはなぜ、その女神の提案を受け入れたのだ?」

「あの女神は言ったんだ。『不慮の死であなたという若い息子を亡くしたご両親の心を癒す祝福を、この提案を受けてくれるのなら厚く授けてあげるわ』ってね。オレも、あの時は後悔の念に押しつぶされそうだったからな。遊びに行って死んでしまった訳だし。それで、受け入れてしまったという訳。両親を悲しませているに違いないって思ったからね」

「下衆な提案だな」

 思わずスレイは呟く。

「まったくだ。その厚い祝福とやらがオレの両親に授けられているのかどうか、さっぱり分からない訳だからな」

 ゴローも同調する。

「キミ達の話す自称女神の話のくだりは大きく変わりはないのだが、この世界へ来ることを受け入れさせるその女神とやらの交換条件は、それぞれで違っていたからな。それぞれが断りにくい条件を提示されたように思える」

「そうなのか?確かに怪しい存在ではあったが。あの、シュマルカとかいう神」

「そして、そのシュマルカという神が言う『世界を救う』とはどういった事だったのだ?」

 スレイはゴローにそう問いかけた。静かな怒りがスレイの呼気には混じっている。ゴローはそれに気づかないままに答えた。


「『魔族を滅して人類の繁栄に貢献せよ』だったかな。確か、そんな事を言われた」

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