第8話 一閃

「リュウキくん。これだけは聞いておかねばならないのですが……。これに関してだけは絶対に嘘をつかないで欲しいのですが」

「なんだ」

「転移魔法のあの魔法陣、この鉱山にあるのはあの一つだけですか? そして、あの魔法陣を設置し、利用する事の出来るニンゲンは、今いる九人の中にいますか?」

 リュウキの顔は青ざめる。そして、絶句。

「あ、う、え……」

 何か言葉を発しようという理性とまとまらない考えが、リュウキの口から意味のない音を押し出す。

「そうですよね。いますよね。新たな魔法陣の設置の為、そして、帰還の為。いない訳がない。そして、その能力を持った者はリュウキくん、今回キミがここに転移してくる直前に斥候として一度来て、直ぐに帰った。そして、その後、三人ずつ三回に分けて転移してきたその三組目にいる。そうですね?」

「え、う……」

 リュウキの口から出る音はやはり意味を為さない。そしていたずらにリュウキの視線は泳ぐ。その泳ぐ視線の一瞬の焦点をスレイは見逃さない。

「分かりました。キミですね」

 スレイは左手で一人の男を指す。右手はエレナをしっかり掴んでいる。

「その男を私の前に連れて来てください」

 スレイは男の両脇に立っている兵士に命じた。スレイの歩幅でおよそ三歩くらいの距離に、その男は連れてこられ、座らされた。その男は立っているエレナ越しにスレイを見上げる。その両脇にはオーク兵とゴブリン兵。彼自身の両脇にもオーク兵とゴブリン兵がいる。


「名乗ってもらいましょうか」

 スレイは言う。その言葉は冷気など纏っていないが、座らされている男はガクガクと震えている。

「転移魔法の魔法陣を描けるのも、転移魔法を使えるのも、キミなんですね? 私の名はスレイ。キミにもどうか、名乗って頂きたい」

「は、はっ、ハクヤ……。ミキ・ハクヤ、だ」

「そうですか。初めまして、ハクヤくん」

 スレイの持つ威圧感が増大する。エレナにはスレイの顔は見えないが、その真後ろから発せられる威圧感はエレナの背中に汗を拭き出させた。

「確認しますが、転移魔法を使えるのはキミで、君以外の仲間に転移魔法を使えるニンゲンはいない……。そういう事でよろしいか? 決して嘘などつきませぬよう、お願いします」

「は、は、はい。その通りです……。私が転移魔法の使い手です」

 スレイは無言でエレナを左の兵に預け、一歩踏み出し、一閃、ハクヤを蹴り倒した。

「グァッ」「や、やめろー!」「キャア!」人間たちの声が響く。

「おっと、失礼。なぁに、殺しはしませんよ。キミさえいなければ、武器を手にする事もなく死ぬなんて事はなかったんだと思うとね……。鍬やショベルで立ち向かい、キミ達に殺された仲間がいるんですよ。そして、君たちを迎え撃つ為に、私は未だに彼らを弔ってさえやれていない」

「ゴホッ、ゲフッ」と呻いた後に、ハクヤは言った。「殺すなら殺せばいい」と。

「いいえ、殺しませんとも。転移魔法の使い手を確認する必要があっただけですから」

「どういう事だ」横たわったままハクヤは言う。

「私の事情もありましてね。これから皆さんを王城にお連れするのですが、転移魔法の使い手だけは連れて行けません。当然ですよね。我が王の城とキミたちの本拠地を繋ぐ訳にはいきませんから」

「じゃあ、オレだけ……」絶望を顔に浮かべてハクヤは言う。

「そうです。キミにはこの鉱山にいてもらいます。あぁ、もちろん、今回使用した魔法陣はもう使えませんよ。とりあえず、あの上には巨岩を置いておきましたし、王都からの迎えと共に、我が国の魔法研究員がこちらに来る手筈になっていますから」

「きょ、巨岩……」ハクヤは力なく呟いた。

 ハクヤは背も低く、筋肉にも恵まれていない。なにかを悟り、深く絶望したようだ。

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