11.宇宙へ 1/2

 晶の乗艦を前にして——。


 桜花が巨腕を水平に広げる。

 回天のスラスターが起動。


 左右の巨腕の横に幾何学記号の組み合わせ——魔法陣が出現。

 回天が徐々に速度を上げる。


 魔法陣から巨大な剣の切っ先が現れる。


 巨腕に並行して移動する魔法陣から、空間の幕が引かれるように剣の全貌が顕になる。


 巨腕が通過がてらに出現したばかりの柄を掴み、一気に前方へ振り抜く。

 そして、桜花の機体本体の軌道がぶれることはない——回天の慣性制御の恩恵だ。


「次元収納庫って、まるっきりファンタジーだな」

「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないってフレーズなら聞いたことあるでしょ?」


 鷹揚たかのぶの独り言をまどかが拾う。


「さっきからアカ姉が大人しくないですか?」

「いじけてるんじゃないの? 誰かさんが連れてってくれないから」

「上手く言っておいてください」

「どうしようかしら」


 四方八方からの砲撃を切り払い続ける桜花を乗せて、回天はあきらの乗艦に接近する。


「全く危なげがないわね」

「似たような状況で何回も死に戻りしてますからね。 やっこさん、狙いもタイミングも単調でやり易いくらいですよ……っと」


 身の丈の倍はある大剣を軽々と振り回し、すれ違いざまに晶の乗る戦艦の後部にあるメインスラスターを破壊する。

 防御フィールドが一瞬抵抗らしきものを示したが、すぐに霧散した。

 強引に回天を反転させ、もう一方の大剣で残りのスラスターを切り落とした。

 さらに、大剣を戦艦の横腹に突き立て、回天を艦首方向へ進ませた。


 ベキン!

 はじけ飛ぶような振動が、桜花の機体越しに鷹揚に伝わり、剣が折れたことを知らせる。


 特に気にせず、そのまま駆け抜け、艦首を越えたあたりでさらに反転。


 残りの剣を両の巨腕で構え、艦の後方、やや中央寄りのポイントにむけて突撃する。


 スピードを乗せた大剣は柄まで船体に埋まり、晶の艦は完全に沈黙した。

 剣がメインジェネレーターを貫いたのだ。

 内部に異物が混入したジェネレーターは必要な熱状態が得られなくなり、急激に出力を落として停止する。

 つまり、ジェネレーターの類は、簡単に爆発を起こさないのだ。



 鷹揚はゆっくりと残りの戦艦に向き直る。


「待たせたね、どうしても、先にコッチの方を片付けたくてね……」


 刹那、回天が極短距離ジャンプで敵艦の艦首傍に出現した。


 八隻の戦艦は密集陣形を取り終え、後は全火力を集中させようとしていたところに、セオリーを無視したジャンプ移動で完全に不意をつかれた。


 とにかく、射線をずらされたままでは戦闘がままならない。

 八隻が鷹揚を再び正面にとらえようと移動を始める。


 鷹揚が見たところ、八隻の動きには全く統一感が感じられなかった。

 散発的にに牽制の砲撃を桜花に命中させているが、防御フィールドではじける程度だ。


 一方で、鷹揚はその巨腕を手近な戦艦の艦首に食い込ませ、ちょうど鼻先に取り付いた形となっていた。

 今のところ、残りの七隻は放っておいても問題ない。


 ゆっくりと、戦艦の後部が動き始める——桜花を中心として。


 八隻の戦艦が桜花を正面に収めるも味方の艦隊同士が向かい合っている事に気付いた時には、味方の艦がコマのように振り回されている状態だった。


 回天のスラスターから大量の粒子の輝きが放たれる。

 同時に鈍器と化した戦艦が手近にいた戦艦に叩きつけられる。


 思いもよらない攻撃を受けた戦艦が、中央から折れ曲がり沈黙した。


 桜花の鈍器での攻撃は止まらない。


 次のターゲットは艦首を打ち据えられた衝撃で弾薬が炸裂したのだろう、そのまま誘爆し四散した。


 三隻目の戦艦のスラスターを破壊したとき、さすがに鈍器も半ばから折れてしまった。


 桜花は鈍器のをハンマー投げの要領で四隻目に投げつける。


 運がいいのか悪いのか、四隻目の船底に命中した艦首は内部の弾薬の誘爆によって暴発し四隻目の船体の三分の一をえぐり取った。


「うっし! あと二隻ィ!」


 間抜けなことに戦艦は九隻とも艦載機を積んでいなかった。

 を積み込むためだ。

 各艦に搭載できるドラゴンと艦載機はそれぞれ四機づつ、九隻で合計三十六機の戦力があることになる。

 これがあれば、もう少しマシな戦闘ができたかもしれない。


 残った二隻は逃亡を選択した。



「あ~あ、降伏してたら運命は違ったかもな」


 桜花が巨腕を、まるで何かを抱え込むかのように前方へと突き出す。

 回天の機首が左右に広がり内部機構が顕になる。


 巨腕と機首の先端から粒子の奔流がはなたれ、遅れて桜花の腹部前に発生した光球が四本の柱に沿って射出される。


 光球と光柱が混じり合う頃、それらは逃走を図る二隻に追いつき、これらを消滅させ、なお勢いを落とすことなく彼方へと消えていった。



「さて、コッチの意志は上手く届いてくれるかな?」


 エネルギー砲弾の行く先を確認しながら、鷹揚はつぶやいた。

 上手くいかなくても構わない、単なる思い付きの意趣返しだ。


「そのまま行くつもりなのよね?」

「ええ、このまま晶を送り込んだ奴らに一当てしてきます。すいませんが、アカ姉には——」

「イ・ヤ・ヨ! 自分で言いなさい。渡水わたみずのことも聞いてるんでしょ? こんな状況でジンバ君がチョッカイを掛けないはずないもの」

「何のことでしょう?」

「まあいいわ。もしジンバ君に会ったら、今回のことはマリーちゃんに苦情を入れておくからって、言っといてね」

「マリーさん? ジンバ君の真ん中の、お・ね・え・さ・ま・よ」

「ははは……、、会ったら言っておきます」

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