第4話

第4話〜ドラゴンも歩けば金の山に当たる〜

















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目が覚めると辺りは既に暗く夜になっていた。

部屋のランプを灯すが外は真っ暗である。



「おはようございますマスター。疲れは取れましたでしょうか?」



寝起きでぼんやりとする中、ニーズヘッグの声が微かに聞こえてきた。



「んぁあ...おはようニーズヘッグ。俺が寝ている間何もなかったか?」


「はい、特に目立った動きは見られません。ですが一人の給仕が夕食を運んで来ますから、受け取ってください。一応、毒の検査も致します」



ニーズヘッグがそう言って、ものの数分もしない内に一人の給仕が食事を運んできた。


給仕の服装はいたって普通で、黒と白が基調の制服を着ていた。


そして物静かに料理を運んできてくれた。

俺は本当に来たことに驚いた。


一旦、夕食を受け取ると給仕は早々と部屋から出ていった。



「俺達は歓迎されていない感じなんだなニーズヘッグ。異世界ならもっとこう...ちやほやされると思ってた」


「私達のような得体の知れない輩(ヤカラ)には関わりたくないのでしょう。それから、夕食の中身を調べました。スープのお皿だけに少量の思考低下を引き起こす薬が入れられています。なのでマスターはスープ以外をお食べ下さい」


「異世界もそんなには甘くないんだな......」


「マスターの世界の認識では優しい世界ですが、ここは厳しい世界です。マスターはこれからもこのような扱いを受けるかもしれません。ですが私が守って見せましょう」


「ああ、ニーズヘッグさん好きです」


「私はマスターを守り、支えることだけが存在意義なのですよ」



夕食を食べ終わると、無駄な時間が過ぎていく。


するとドアが三回程ノックされ、中へと入って来たのは私服姿のエルラさんだった。


私服姿と言っても、かなり装飾の凝ったものだった。



「夜分に失礼するヨグ殿 」


「ちょうど暇を持て余していましたので良かったです」


「それはよかった。...それで私がここに来た理由だが、姫様がご挨拶をしたいそうなのだ。もし無理そうなら日を改めるが」


「今から用意するので少し待っててください」


「ああ、わかった。用意が出来たら出てきてくれ」



そう言ってエルラさんは部屋を出ていった。


それにしても姫様というのは公爵家の人間だ。


服装が乱れていたり、髪の毛がボサボサのままでは失礼だ。

最悪処刑されるのはごめんだ。


俺は用意を済ませ満身創痍(マンシンソウイ)で部屋を出た。



「用意が出来たのだな...よし、ではついてきてくれ」



俺はエルラさんのあとをついて行き、城の外へと進んでいく。


見えてきたのは、豪華な内装の廊下だった。

装飾は豪華で立地も良く広さも別格だった。



「でけぇなー...」


「そうなのか? 貴族達が寝泊まりするには各部屋が少し小さい方だがな...。まあ、王都に比べばの話だ」



どうやら転生前の感覚で物事を感じるのはやめておいた方がいいようだ。


この世界の普通が分からない以上、俺の素性が疑われるのは避けたい。



「俺の家はあまり裕福ではなかったので...」


「いやすまない、こちらも配慮が足りなかったな...よ、よし中へ入るぞ」



廊下の扉を開くとまた廊下が続いており、不思議と涼しかった。


そして赤いカーペットや高級そうなシャンデリアが無数に飾られている。


そんな中を通って行き、奥には二枚のドアがある部屋へと着く。


どうやら目的地に着いたようだった。


いかにもラスボスがいるであろう二枚ドアを開き、中へと進む。


部屋の中には、真っ白なドレスを着た少女が椅子に座り、優雅に紅茶を啜(すす)っていた。



「あら、いらしゃい。私は公爵家ヴァレンタイン家の長女ヴァレンタイン・ランジェ、お見知り置きを」


「ヨグ・ランスロットです...えーっとよろしくお願いします」


「ふふ、そんなに緊張しなくていいわ。今回呼んだのは私達を危機から救ってくれた感謝のためよ...」


「はあ、そうですか...」


「じゃあさっそくだけど何か望みはないかしら? なんでも好きな物を言ってくだされば、なんでもご用意致しますわ!」


「欲しい物ですか...」



俺は前世の知識を生かして、こう言う時はなんと言えばいいかよく知っていた。


答えは一つしかないのだ。



「じゃ、じゃあお金が欲しいです」


「...」



俺がそう言うと彼女は少し驚いた表情で制止した。


あまりにも静かだったので、少しの間、場の空気が止まって感じた。


すると突如、彼女は笑い出す。



「フフ、フフフフ...面白いわ! 気に入ったわヨグ、貴方程、欲に忠実な人は初めてよ! いいわ沢山の報酬を差し上げるわ。後は...明日城へ来て下さる? その時にお金ともっと良い物を貴方に差し上げるから楽しみにすることね...」



何がどうなったか全く分からなったが、どうやら気に入られたようで安心した。


しかもお金に加え、何かをくれると言っていたので、これで追い出されても食っていけないことはないだろう。


俺はその後、機嫌の良いまま部屋へと帰って行く。

もちろん翌日に事件が起こるとも知らぬまま。







〜翌日王城にて〜


俺は朝早くから給仕さんに叩き起されて、朝食と服の着付けを行った。


最初は何故、着付けを行うのか分からなかったが、王城へと入るとその答えはあった。


それは俺の功績を称え先帝様直々に褒美をくれるからだと知った。


さすがに昨日の今日で、急に態度を変えてきたことから、企みがあるのではと思ったがニーズヘッグに伝えると「多分、大丈夫」と言っていた。


一応、武器としてニーズヘックを帯槍しておいた。


そして王城の集いの場という場所に移動すると、そこには沢山の貴族達が集っていた。


その奥に居座る、まさに王の風格をした人の前へと俺は連れ出される。


俺は内心緊張する。


だがスタスタと歩いて行き、先帝様の座る少し先に着いた。


そして俺は膝を地面に着き、忠誠を誓う騎士のポーズをする。


(正直めちゃくしちゃ恥ずかしい)



「皆の者、今日は急にも関わらずよく集まってくれた! 今日はこの者、ヨグ・ランスロットの功績を称えようと急遽、開かれたのだ。まず功績として、あの大魔境の森から帰還し、その奥にある死の神殿の攻略を行った功績を称え、ヨグ・ランスロットに男爵の一位の位と、王国にある竜騎兵育成学園の編入を許可する。さあ! 皆の者、彼の者を称えよ!!」



そう言い終わると同時に周囲からは拍手喝采が巻き起こる。





ーーーーーーーーーー



それは授賞式も終わり俺は王室と言う部屋へと案内されていた頃だった。


部屋には先帝に公爵家、そして数々の名門貴族に剣聖とまさに世の中の最上位者達が集まっていた。



「ほほ、本日はお招き誠にありがとうございましゅ!!」



そして緊張のせいか、俺は第一声を盛大に噛んだ。



「ハハ、まあ良いヨグ・ランスロットよ。先程までは正式な場であるが今は違うからそう緊張せんでいい」


「は、はい。ありがとうございます...」


「それから改めて礼を言おう。よくぞ我が姪を救ってくれた」


「俺はゴブリン達を追い払っただけですし...実際は俺の手じゃないけど」


「まあ良い、結果がどうであれ助けてくれたことには変わりない。それに教育はされていないと聞いていたが、なかなか謙虚で素晴らしい。ランジェが欲しがるのもわかるの〜」


「ちょ! お爺様!? ななななにを勝手なことを!? 私は彼が面白いからその気に入っただけよ!」


「ほう?...昨夜我を叩き起してまでこの者に男爵の地位をあげろと言っていたのが嘘みたいじゃ。まあ、確かに貴族階級の世界では男爵以上でなければ公爵家は結婚も出来んからの〜」


「んんんんんんんんんんんんんんんんーーーーー!! お爺様ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



ランジェの羞恥の叫びが部屋中を駆け巡った。


しかし彼女の想いも虚しく、この男には届いていないだろう。

数分後...。



「ぉぉおお姫様! これ以上は先帝様がお亡くなりになりそうなので、首を掴むのはおやめ下さい!!」



ランジュは恥ずかしさのあまりか、我を忘れ、先帝様の首襟を掴んで睨んでいた。


しかし周りの者は彼女よりも立場が下のため、強引に引き剥がすことができず、声をかけて制止させるだけだった。


だが今にも先帝はお亡くなりになりそうだ。

収拾がつかないため、見かねた俺が声をかける。



「あのー...」


「ひゃい!... 急にどうしたのかしらヨグ?」


「報酬の件なのですが、俺はお金だけで良かったんですけど...えっと今から取り消しとかは」


「なんじゃ! 我からの褒美が受け取れんと申すか!?」


「いえ! とても褒美はありがたいのですが、俺は森に住んでいたので貴族のルールどころか一般人のルールすら分からないんです。ですから貴族になれと言われましても正直きついです」



俺はあらかじめニーズヘッグと考えていた素性を先帝様に伝え、褒美の内容を変えるようほのめかした。


しかし、相手は腐っても元王様だったこともあり、一枚上手だった。



「そのことなら褒美の中に含めてある、竜騎兵育成学園に通えばいくらでも学べるぞい。それに我が国が竜兵装に乗ることのできる者を、今更一般市民として放っておくわけがなかろう。なに取って食おうと言うわけではないから安心せい。現国王である我が息子が我の認めた者を無下には扱いはせんだろうからの」


「わかりました...では俺は何をすればいいでしょうか?」


「そなたは王国へ向かうまでの間はこの古都を満喫するといい。ああ、あとそなたの欲していたお金も用意してある。ざっと1000万ドラじゃよ! 我が姪の成長も見れたから奮発してやったわい!」


「一千万...待てよ日本円でいくらだニーズヘック」


(はいマスター、一千万ドラはニホンエンで一千万円といったところですね)


「はは、やべえ金額だな...」



このあとはお金(大金)を受け取り、その場は解散となった。


そして宿へと帰ろうと歩いていると、周りにいた一人の従者が「男爵となったため宿を変えるようにと先帝様より承っております」と言っていたが、俺は案外あの部屋が好きだったので丁寧にお断りし、そのまま帰った。




〜古都の内側-高級宿の小部屋〜


部屋に戻ってきたと同時にベッドへとダイブする。



「いやー、大変だった!」


「そうですね、私もマスターがいきなり貴族になって大金持ちになるとは思いもしませんでしたよ」


「そうだよなー、俺もびっくりだよ。なんか異世界が始まった気がするな」


「それにもう想い人を作られるとはマスターも隅に置けませんね」


「え? 何が?」


「いえ、なんでもありません。それではその大金の使い道ですが私なりに考えました!」


「おっ! いいね、いいね...美味しいものも食べたいしね」


「まあ、とりあえずは節約と言うことで、従者を買いましょうマスター」


「従者?」


「はい、私は戦闘面ではマスターに役に立ちますが生活のことはできません。なのでこれから学園という場所に適応するためにも奴隷を買い従者としましょう」


「なんかイメージ悪いからやだなー」


「今日の夕方過ぎ頃にサラマンダーの少女が出品されるようですね」


「よし、行こう」


「マスターは生粋のドラゴン好きですね」


「待ってろよドラゴン娘! 俺が買うその時まで!」





〜古都の内側-夜の街〜



「あー、さみぃ...てかもうちょい厚手の服で来るんだった!」



異世界の夜は異常に寒かった。


ただでさえ街灯や人通りが少ないのにこの寒さのせいで少し恐怖を感じた。


そして歩いて、十分ほどたった頃だった。



「たしか...ここであってるよなニーズヘッグ?」


(はいマスター! ここであってますよ)



目の前には小さな木の家が建ってはいるが、もはや廃墟同然の見た目をしていた。


もちろん中の様子は見えないし、それどころか人の気配すら感じない始末だ。



「それでここに着いたら...なんて言えばいいんだっけ?... ルリ? 違うな...えっと...」


(合言葉は赤色のルビーですよ)


「赤色のルビー...」



訳の分からない合言葉を言い放つと木目のドアが開き眩しい光が目に飛び込んでくる。


すると目の前には一人の男が現れる。


その男はいかにも奴隷商人のような見た目で、黒色を基調としたテカテカなスーツを着ていた。



「いらっしゃいませお客様。私は奴隷商のウーリマス・カーイマスでございます、どうぞ今後ともごひいきに...。それではこの仮面を着けていただき、会場へ案内致します」


「...」



俺は何も言わず、ただうなずくだけだったが、とりあえず中に入れたので結果オーライということだ。


そして目元と鼻が隠れる仮面を着け、会場へ向かうとそこには目を疑うものがあった。



「お客さま目的地はここでございます」


「ええええええええええええ!!!!」



そこにあったのは先程までの廃墟とは比べ物にならない程の、コロシアム会場が目の前にはあった。


どういう理屈かは分からないが、どう考えても外にあった廃墟同然の木の家と、このコロシアムの大きさは比例していなかった。



「おやおや、お客様、奴隷売買は初めてでございますか? なら驚いても仕方ありませんね。では特別にルールをお教え致します。まずここは魔法技術を用いた特殊なステージとなっておりますので外から見られることも聞かれることもございません。また原則暴力行為や他のお客様の迷惑となる場合は最悪追い出されるかもしれませんので、絶対に仮面を外したりはしませんようご注意ください」


「わ、わかった」



そしてよく見ると俺以外にも二十名ほどが先に座っていた。


どうやら服装を見る限り、どの人も貴族出身で、宝石などが付いたアクセサリーを身に付けていた。


あまりほかの貴族とは関わりたくはないので、俺はお目当てが来るまでは、その辺の椅子へと座り、待つことにした。


すると会場全体が暗くなり、ステージの真ん中だけにスポットライトが当てられる。


そして現れたのは先程の奴隷商とその奴隷達だった。



「皆様、大変お待ち頂きました! 今から奴隷の売買を始めます。まず最初はこの三人でございます!」



奴隷商がそう言うとステージに現れたのは右からエルフ族、ウルフ族、吸血鬼族の少女達だった。


しかし、お目当てのあの子ではないのでスルーだ。



「ではまず一万ドラから始めましょう」


「五万!」


「十万!」


「十二万!」


「今月ヤバイけど百万!」


「百五十万!!」



お金はどんどんと、つり上がって行き最終的にはエルフ族の少女が一千万ドラ、ウルフ族が九百二十万ドラ、吸血鬼が一千二百万ドラとなった。


確かにどの種族も万能で、愛嬌もあるとなると値段も膨れ上がるのも納得だ。


しかし、それよりも今回のお目当てであるサラマンダー族が買えるかが、かなり不安になってくる。



「では続いて早速ですが今日の二番手を出しましょう! 続いてはこの奴隷だあ!」



会場は奴隷商の言葉とともにテンションがヒートアップしていくが、その奴隷の姿を見るなり静まり返ってしまう。


目の前に現れたその奴隷はもちろんサラマンダー族の少女だった。


また見た目は十二歳くらいの少女で赤い瞳に淡い黄色の髪、そして手足や尻尾には目を奪われる程美しい鱗がついていた。



「こちらサラマンダー族の少女の奴隷でございます!! サラマンダー族は戦闘に優れるだけでなく、なんと娯楽面でもスゴいと評判なのです!! しかも今回は処女でありますのでなかなか手に入らないレアものでございます!」



奴隷商は口細やかに話をしているが周りの人達はどこか浮かない顔をしていた。


まるで嫌なものでも見せられているかのようだった。


焦った表情の奴隷商はこの状況を打破しようと言葉を並べているが、どうやら彼らは人の価値観の違いを甘く見ていたのだろう。



「だ、誰か買う者はおりませんか!? たしかにこの古都ではサラマンダー族に対して強い嫌悪感を抱いているそうですが別の国では違います! サラマンダー族は大地の女神と言うところもございます!」


「そういわれてもなー」


「誰か買うやついるか?」


「うちは無理だぞ」


「わたくしも無理ですわ」



貴族達は口をそろえて「無理だ」と言い放つ。


奴隷商人も可哀そうだったが何よりもステージに立たされている少女も自分の扱いに気づき涙目になっていた。


そして誰もが乗り気でないまま売買がスタートする。



「で、では百万ドラからスタートです!」


「百万...」



俺は開始早々にそう奴隷商人へ向けて言い放つ。

すると周りの視線が一気にこちらへと集まってくる。



「あいつマジかよ」


「俺噂でサラマンダーに一家全員殺されたとか聞いたぞ」


「家が燃やされたとかも聞いたな...」



貴族達は口々に根も葉もない噂話を話し始める。


しかし俺は気にせず平然と手を上げ続ける。


その姿に安堵した奴隷商人が他にも競走相手がいないか辺りを見渡すが誰も名乗ろうとはしなかった。


そしてしびれを切らした奴隷商人が売買を終了し、俺の一人勝ちとなったのだった。


その時、俺の心の中では静かにガッツポーズをしていた。





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