第40話

次の日、学校へ行こうと家を出ると、アン子が左上を骨折して、肩から腕にかけて白い布を巻いて待っていた。


「どうした⁉アン子」


「仕事中に転んだのん…」


「大丈夫か?」


「なんとかすぐ病院に行ったので平気なん…」


「まさか従業員同士のケンカじゃないだろーな?」


「そんなんじゃないのん…」


「とにかくもうすぐ夏休みだから、気を付けてくれよ。店からお金をふんだくれ!」


「…アン子のせいなん。大丈夫、夏休みまでには直るん」


そうは言うものの、俺はやはり不安だった。アン子は小さい生物だから、壊れやすいからだ。


俺はアン子の件を話すために、すみれの教室を訪れた。


相変わらずファンに囲まれている。すみれはすまし顔だ。


「すみれさんは夏休みどこ行くんですか?」


「どこか一緒にいきましょうよ!」


すみれは言葉を濁しつつ、思わせぶりな言葉を紡いでいた。


「すみれ!」


「あらキョースケじゃない。どしたの?」


「アン子が骨折した」


「ええ!平気なのそれ⁉」


「大丈夫とは言ってるけど、不安だ」


「…分かったわ。報告ありがと」


「誰ですかあの男!」


「あのオッドアイ野郎とどんな友達ですか?」


既に教室は混乱状態になっている。


気にせず俺は自分の教室に戻ってゆく。


「アン子、全治何か月か言われたか?」


「言われてないのん」


ますます不安にはなっている。夏休みまで20日を切っていっていたからだ。


「バイトはしばらく控えておけよ?」


アン子はキョトンとしている。


「片手でもできるん」


「ほ、本当か?」


仕方が無いので、そのまま暑い教室でテキストをうちわ代わりに涼をとるしかなかった。


暑いので夜もうちのバイト先は混雑していた。普通に忙しい中、俺は単純作業を黙々とやっていた。


受け取ると、すみれがまたやって来ていた。


「忙しいから来るなよな」


「なにその言い方。アン子の情報持ってきたのよ」


「なんだ?忙しいから手早くな」


すみれは内緒話のように語りかける。


「アン子の骨折、全治1か月らしいわよ」


「マジでか!微妙だな」


「そう、だから夏休みの後半、少し後にチケットを取るから。それじゃ」


全治1か月か…。直してから行きたいもんだ。


頭を切り替えて、また俺は作業に夢中になった。


仕事終わりに店長が、


「響介君は頑張ってるから、時給あげるわ」


「本当ですか?ありがとうございます!」


「だからシフト間違えないでね」


そう言えばパラオの休養日を伝えて無かった。


「あの店長、実は俺夏休み中にパラオに旅行するんです。8月なんですが休み取れますか?」


「あらそうなの。7月は無理だけど8月ならシフト調整できるから、いいわよ」


助かった。これでパラオは確実だ。満足げに自転車に乗って帰って行った。

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