第2話 父と息子


 ダンジョンからあふれたモンスターは、人々を襲い、街を破壊し、文明を壊しました。

 しかし住む家を追われた人々は、身を寄せあって協力し、モンスターから家族を守りました。


 そんな人々を可哀想に思い、神様が人間に授けてくれたのが【スキル】です。


     ――― ダンジョンの書より



 アカネちゃんと別れてからどれくらい経ったのか・・・


「レイ!ダメだダメだ!木刀をただ振り回すんじゃない!」


「うっ!」


 父さんの木刀で、僕の木刀が払われてしまった。


「良いか、レイ。なんども言うが、木刀は正しく腰から抜いて、正確に構え、そして相手を切り、木刀を腰に戻す。

 1つ1つの動作を正確に、もう一度だ!」


 僕と父さんは、アカネちゃんのいる『ホーム』を離れてからずっと歩き続け、蝉の鳴き声が聞こえなくなる頃、やっとこの『月光山』にたどり着いたんだ。


 そして、この月光山の山頂付近。魔力が濃くなってるスポットで修行を始めた。


「木刀を振り下ろす時、頭に敵を思い描いてそれを斬れ!

 その一撃は、絶対無二の一撃なり・・・」


『この一撃は、絶対無二の一撃なり!

 されば、全霊を込めて一撃せよ!』


 僕は、父さんの教えをなんども頭の中で繰り返しながら、木刀を振り続けた。


【全霊を込めて、1日1万回素振りをしなさい】


 これが父さんから課された修行だった。


 修行を始めたた頃は、比較的軽い木刀だったが、1万回素振りが終わるには12時間以上かかった。


 僕は3日で倒れた。両腕が紫色になって腫れ上がり、まともに腕を動かせなかったが、たとえ遅くても木刀を振り続けた。


 そんな時父さんは、僕の両腕に山の中で取ってきた薬草をすり潰して、毎晩塗ってくれた。


 両腕の腫れがひくころには、僕は課せられた1万回を8時間で振ることが出来るようになっていた。


「レイ、次は父さんの木刀で素振りをするんだ。」


 大人用の木刀は今までの木刀より長くて重くて、素振りをしても僕が振り回されるほどだった。


『この一撃は、絶対無二の一撃なり!

 されば、全霊を込めて一撃せよ!』


 なんどもなんども父さんの教えを頭の中で唱えながら重い木刀を振り下ろす。


 木刀を腰から抜き、構えて、心と気合いを込めて振り下ろす!木刀を腰に戻す。


 父さんの木刀で、素振りを1万回振るのに8時間を切るようになる頃、いつの間にか春になっていた。


「父さん。木刀を構えると、何故か感謝の気持ちでイッパイになるんだけど、こんな気持ちでいいのかなぁ?」


「何に感謝してるんだ?レイ。」


 僕は毎日食べている雑穀パンに齧りつきながら、父さんに話した。


「まずは、父さんと母さんに。僕が修行に集中できるよう世話をしてくれてありがとう、父さん。

 僕を修行に耐えることができる体に産んでくれてありがとう、母さん。

 修行中、僕にパワーを分けてくれてありがとう、お山様。こんなふうに、いろいろ。」


 父さんは、嬉しそうに笑って言った。


「そうか、でかした!」


 父さんの無事に残っている右手で、頭をくしゃくしゃになでてくれた。くすぐったいよ。


 その次の日、父さんは一振の刀を僕に渡してこう言った。


「レイ。この刀の銘は『斬月丸ざんげつまる』。父さんと母さんがあるダンジョンから持ち帰ったレア アイテムだ。

 今日から10年間、この刀で毎日1万回素振りをしなさい。」


 僕は、父さんからもらった斬月丸ざんげつまるを手に持った。

 ずっしりと重いし、長い・・・鞘から抜くのも難しい・・・

 

「はははっ、レイがこの斬月丸ざんげつまるに全霊を込めて、無二の一撃を撃てたとき、レイは【スキル】を超えた剣士になれる。父さんが保証する。」


 僕の頭をクシャクシャにしながら、楽しそうに父さんがいった。


「それから、レイ。刀を振り下ろす時、あ前は何を見て振り下ろすんだ?それをよく考えてみろ。」


 それからまた斬月丸ざんげつまるを振る毎日がつづいた。


 この大太刀は、6歳の僕が振るには身に余る長さで、鞘から抜いて構えることすら時間がかかって無様な動きだった。


 それから毎日、雨の日も、風の日も、焼けるような熱い日差しの日も、木枯らしの日も、雪の日も、僕は斬月丸ざんげつまるという唯一無二の相棒に取り組んだ。


 父さんは、そんな僕の姿が面白いようで、いつもできる限り僕の近くで相棒と格闘する姿を楽しそうに見守ってくれていた。



 僕と父さんが山にこもって修行を初めてから5年が過ぎた冬の終わりに、父さんが死んだ。


 ダンジョンで片腕を失った父さんが、日中は僕の修行や食事の用意をしてくれ、夜は倒れるように眠る僕をモンスターから守るために、浅く途切れ途切れの睡眠で見張りをしてくれていた。どんなにか負担だっろう・・・


 これら全てが父さんの命を削ったんだ!僕はなんてバカだったんだ!もっと、もっと早く僕が気づけば!


「父さん、ごめんなさい、ごめんなさい

・・・・・・」


 泣きながら僕は、父さんの遺体を僕と父さんが修行していた山頂近くの小さな修行場の隅に埋葬した。


「父さん、こんなに軽くなってたなんて・・・僕はどんなに親不孝なんだ!!」


 周りから小石を拾い集め、父さんを埋めたお墓の上に一つ一つ積みあげた。


 積み上げながら、父さんの教えを一つ一つ繰り返し思い出した・・・


「うおーっ!」


 僕は抑えきれない衝動で、斬月丸ざんげつまるを乱暴に振り回した。

 ・・・日が落ちて山頂に強い風が吹き付けても。泣きながら、振り続けた。


 でも、いつの間にか、僕は父さんに教えてもらった型どおりに刀を振っていた。父さんにありったけの感謝を込めて、一振一振。

 いつしか、僕の目の前には父さんが剣を持って立っており、剣を両手で構える姿は【剣豪】の闘気をまとっていた。


 ああ、これこそが【剣豪】さかき ダイゴの本当の姿だったんだ!


 僕がなんど打ち込んでも父さんには届かず、逆に切り返されてしまう!


 強い!強いよ、父さん!!!!


 僕は気を失うまで、父さんに無二の一撃を撃ち込んだ!



スウ――――


 霊峰『月光山』の足場の狭い山頂の前に立ち、お山様の霊気をゆっくりと吸い込む。


 息を止めて斬月丸ざんげつまるを鞘から抜き、父さんに感謝し、母さんに感謝し、お山様に感謝し、そして命に感謝し、刀を大上段に構える。


 目を見開くと、そこには同じく剣を大上段に構えた父さんの姿が見える。でも、今では父さんの姿が剣の神様に重なって見える!


 シュッ!


 この一撃に僕の全霊を込めて、絶対無二の一撃を振り下ろす!音を置き去りにした剣閃が交差した!


 『見事!』目の前の剣神が切られて消えた。


 ふぅぅぅぅ―――


 ゆっくりと息を吐き出しながら、斬月丸ざんげつまるさやにおさめる。

 

コトッ


 目の前のお山様の頂きが、30センチほど斜めに切断されていた。


 僕は切断された頂きに深く深く頭を下げて、10年に渡った修行をお山様に感謝した。


 僕はその日、山から降りた。



◇◇◇


『運命に選ばれた星が、試練を乗り越えました。お姉様』


『星は妾たちの袂で輝き、いつかこの地に調和をもたらすであろう』


『星の輝きに祝福を』

『『『星の輝きに祝福を』』』



************


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