成果

 風呂上がり、アイス一本持って、リビングのソファに鈴は腰掛けた。

 リビングでは弟の大輔がテレビを見ている。

「風呂空いたから行きな」

「ああ」

 と、返事をするも大輔は動かなかった。じっとテレビ画面を見ている。

 今、見ているのはニュース番組内のスポーツコーナー。野球、サッカー、バスケなど報じている。そこで日本プロ野球の情報が流れている。どの球団が勝ち、どの選手が活躍したのか、そして記録云々。その後、メジャーリーグで活躍する日本人選手へと移る。

 それらが終わると次はサッカーへ内容は変わる。

 が、今回は違った。

『今日はなんと独立リーグのホワイトキャットに入団した梅原選手が特大アーチを二連発しました』

 女子アナが声を弾ませて言う。

 画面は今日、行われたホワイトキャットの試合。打席には梅原。

『第二打席で梅原選手は相手投手のストレートをフルスイングで豪快な一発。これには相手投手も打たれた瞬間にホームランと分かり、項垂れる』

 女子アナの言う通り、相手投手は球が飛んだ方角を見ていなかった。

『さらに第三打席でも梅原選手はカーブに上手く合わせてフルスイング。これまたよい響きを出して白球を打ちました』

 今度は柵をギリギリ越えた。

『ここ最近、目まぐるしい活躍で大変素晴らしいですね。梅原選手のNPB復帰が待ち遠しいです』

 女子アナが可愛らしく言う。本当かよと鈴は心の中で毒づいた。

 その後、ゲストの元プロ野球選手や評論家が今の梅原の実力にあれやこれやと高評価している。

 特に梅原が打撃フォームをヒールダウン・フライングアッパーにしたことを力説している。

 そしてネットでもここ最近、梅原について、『絶好調!』とか『期待大!』、『頼む! 古巣に戻ってくれ!』という書き込みが多い。

 だが、アンチもまた多く、『相手投手が弱いだけで調子乗るな』、『三流で活躍なら次は二軍か?』、『まぐれ』、『あれなら俺でも打てる』というコメントが書き込まれている。その数は応援するファンより多い。

 それでも鈴は梅原は前よりかは確実に上がっていると感じでいるし、NPBでもまだ活躍する兆しはあると考えている。

「最近、成績いいわね。前もホームラン打ってなかった?」

 リビングにやってきた母の聡子がテレビを見て言う。

「うん。絶好調だよ」

 と、鈴が言うと大輔が鼻を鳴らして、

「相手投手が弱いだけさ」

「ん? まさかネットの悪評はお前か? お前が書き込んでいるのか?」

「ちげえし」

「だ、大ちゃん!」

 聡子も驚いたようだ。

「違うよ。書き込んだりしないよ」

「本当に?」

 鈴は疑わしい目を大輔に向ける。

「当たり前だろ。ああいうのは老いぼれか自分に自信のないクズだよ」

「ふうん。……でも、あんたも梅原選手のホームランはまぐれだって考えいるんだ」

「まぐれとは言わないけど、最近調子が良いからって安心するなってこと」

「あら? 隠れファンなの?」

 聡子が聞く。

「違うよ」

 大輔はフンと鼻を鳴らして、立ち上がる。

 そしてどたどたと風呂場へと向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る