トレーニングテスト②

 鈴達は細長いトレーニング室に移動した。

 そこはネットに囲まれた部屋でバッティングやピッチングの練習場所であった。

「ではまずこのブラーストを使ってバッティングテストを行います」

 鈴はシリコンゴムに覆われた機器を持って説明を始める。

「それ知ってるよ。バットの尻に着けるやつだろ」

「はい。ですのでバットのグリップエンドを当てないように」

「どうやったら尻にぶつけるんだよ」


  ◯


「まずは台の上の球を打ってもらいます」

 ゴム製の細長い台の上に球が一つ載っている。

「では、佐々木さんから」

「オッケー」

 佐々木はブラーストが装着されたバットを受け取り、打席に立つ。

「りゃあ!」

 打たれた球は奥へ飛び、ネットに吸収されポトリと落ちる。

「データは取れた?」

 鈴はタブレット端末を持つ小春に聞く。

「はい。バッチリです」

「では、佐々木さん、これを残り9回お願いします」

 鈴は球を台に載せて佐々木に言う。

 それから佐々木は9回、球を打った。

「次に梅原さん」

「ああ。ただ、ちょっといいか?」

 梅原が険しい顔で聞く。

「何か?」

「フォームは前のでいいか?」

「構いません」

「いいのか?」

 てっきり否定されると思ってたから梅原は素直に驚いた。

「その代わり、新フォームのデータも一応欲しいのでお願いできますか?」

「まあ、……それくらいなら」

「ちょっと待ってくれませんか」

 小春が待ったをかける。

「どうしたの?」

「スローモーション動画のデータも欲しいのですが」

「えーと」

 どうしようかと鈴は梅原をちらりと伺う。

「構わんよ」

「それじゃあ、スローモーション動画撮影もいたしますね」

「あ、任せてください。セッティングは済ませています」

「ええ!?」

 小春は室内のカメラ機材をオンにしてタブレット端末で調整する。

「いつの間に」

「すみません。急にデータが欲しくなって」

「それじゃあ、梅原さん、お願いします」

「ああ」

 梅原は打席に立ち、佐々木と同じように台の上の球を10回打ち飛ばす。

 ただ唯一佐々木と違うのは、タブレット端末を持つ小春の顔つきだった。

「それでは新フォームでお願いします」

「なんか梅原だけサービス良いな」

 佐々木が横から割って入る。

「でしたら、佐々木さんもいたしますか?」

「いや、良いよ」

「梅原さん、お願いします」

 小春が梅原に向けて言う。

「ああ」

 そして梅原が新フォームで球を打つ。

 梅原は新フォームに対して気乗りはないようだが、それでもきちんと新フォームで球を打ち飛ばしてくれた。


  ◯


 次に鈴達はバッティングマシーンのあるエリアに移動した。

「次はデジタルブラジャーを使ってのバッティング練習をしてもらいます。装着はしましたね」

「ああ」

「なんか窮屈だな」

 体格の良い梅原には少し窮屈だったようだ。

「バッティングマシーンの練習もブラーストを使ってもらいます」


  ◯


 バッティングマシーンの後はスープリュームビジョン。

 スープリュームビジョンは壁に75のボタンがあり、その中で光ったボタンのみを押すという反射を鍛えるトレーニング。

「これもテストなのか?」

 佐々木が問う。

「はい」

 スープリュームトレーニングの後、5キロのランニングが始まった。

 場所はジム隣の大北緑公園。

「私の後についてきてください」

 小春が佐々木達に向けて言う。

「そっちはお休みかい?」

 佐々木は鈴に聞く。

 ランニングは小春だけが牽引。鈴はジムで待機。

「私は遅いですから。それだとお二人のテストになりませんし」

「ということは君は速いの?」

 佐々木は屈伸している小春に尋ねる。

「はい。5キロくらいならお二人の不満はないかと」

「それは楽しみだ」

 梅原が面白そうに言う。


  ◯


 35分ほどで小春達が帰ってきた。

「お疲れ様。意外と遅かったね」

 予測としては20分ほどで終わる予定であった。

「梅原さんが途中からついて来れなくなったのでスピードを落としました」

 小春がタオルで汗を拭いながら答える。

「すまねな。てか、俺を置いていっても良かったんだぜ?」

「それはダメです。それだと先に着いた佐々木さんの休憩が長くなります」

「別にいいんじゃないのか?」

「いいえ。今回は同じ時間でのトレーニングと休憩を目指しているので」

 今回のテストは能力値ではなく、疲労レベルを測定するもの。

 休憩が多くなれば、疲労レベルが分かりにくくなる。


  ◯


 ランニングの後、15分の休憩。そして次のトレーニングであるHIITにうつる。

 HIITとは腕立て、スクワッド、バーピージャンプ、もも上げの四つのトレーニングを各々20秒間やり、1種の運動のあと10秒間休憩を挟む。そしてこれを1周として、計8周することがHIIT。

 5キロのランニング後ゆえにか動きは緩慢だった。特に梅原はHIITの2周目あたりで動きは佐々木の半分ほど。

「お疲れ様です。15分の休憩とします」

「おいおい、まだあるのか?」

「もう無理……だ」

 佐々木も梅原も床に腰をおろして、汗をかき、肩で息をしている。500mのスポーツドリンクは一本空になった。

 梅原が自販機で新たにスポーツドリンクを買おうとするの見て、小春が「短期間でのスポーツドリンク摂取は危険ですので。ミネラルウォーターでお願いします」と注意した。

「そうかい」

 梅原はミネラルウォーターを買い、キャップを開けてぐいぐいと飲む。

「次はなんだ?」

 佐々木が鈴に聞いた。

「最後はボクササイズですので」


  ◯


 ボクササイズが終わって、佐々木と梅原は受け答えができないくらい息を切らしていた。

 2人の息が整ってから鈴は声をかける。

「テストは以上となります」

「……全然動かなかったけど。いいのか?」

「はい。これはあくまでパフォーマンスレベル、心拍数、発汗量、体熱などを調べるテストですから」

「発汗? そんなものまで量れるのか?」

「最新のですから」

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