一歩踏み出す勇気がほしい――そんな人はぜひ、桜華堂へ

企画から失礼いたします。
作品の優しい雰囲気に癒され、ついつい公開分まで読んでしまいました。
このレビューは、第3話『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』読了時点のものです。

のんびりとした古書カフェ『桜華堂』を舞台に、そこに勤める人々の少し不思議な日常を描く本作。
従業員たちの下宿先にもなっている桜華堂に、中学3年生の少女、晶(あきら)が越してくるところから物語が始まります。
両親の仕事の都合により親元を離れて暮らす晶。
その境遇からか、彼女は少々内向的な性格をしており、周囲の人々に対して一定の距離を取るような接し方をします。
本作は三人称視点の物語ではありますが、大部分はこの晶の視点で描かれています。

作中では晶の、他人に期待をしない、頼ろうとしない、すべてを自分で抱えこもうとする心情がいじらしく描かれており、とても切ない気持ちになりました。
彼女のこういった振る舞いには共感できる人も多いのではないでしょうか。
他人に傷つけられることを恐れて、自分から関わりを絶ってしまう。
そんな晶に、私はひどく感情移入してしまいました。

この作品の素敵なところは、晶に対して桜華堂の人々があくまでも自然に接しているところだと思います。
親戚をたらい回しにされたという境遇を「かわいそう」と過剰に同情するわけでも、内向的な性格を「もっと明るくしたら?」なんて指導するわけでもありません。
ただ、あるがままの晶を静かに受け止めているのがとても素敵だなと思いました。
心地良い距離感で接してくれる桜華堂の人々に、晶が深入りするのを怖がりつつも、少しずつ心を開いていくストーリーには心が温かくなります。

大人にはもちろん、中高生にもぜひ読んでほしい作品だと感じました。
人を信じることって、そんなに悪いことばかりでもないんだな、と気づくきっかけになるんじゃないかな、なんて。
作中には、登場人物が理不尽な出来事をうやむやに処理したり、自分を殺して生きていく選択をしたりとシビアな展開もあります。
それもこの作品の良いところだなと思いました。
ただキレイなだけじゃない世界だからこそ、ちょっとした他人からの気遣いが輝くんだなと改めて感じさせてくれる作品です。

現時点では、主要人物の抱える秘密に少しずつ触れているところで、詳細なことは特に語られていません。
個人的に、寡黙な料理人の仁さんがすごく好感の持てるキャラクターだったので、今後彼のエピソードが描かれたらいいなあと思っています。
ゆっくり更新ということですので、気長に待っております~!
素敵な作品をありがとうございました。

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