ペンギンの日


 ~ 四月二十五日(月) ペンギンの日 ~

 ※七転八起しちてんはっき

  何度失敗しても努力を続ける事




「え? 違う?」

「違うと思うの」

「イ、イースター島だ!」

「違います!」



 ぶっぶー!



 俺の言葉も。

 クイズの答えも。


 どうやら同時に不正解。


 理由はよく知らないんだけど。

 やたらと部活探検同好会を目の敵にするクイズ研究会。


 なんでも先代がアポイントを何度もすっぽかし。

 それ以来、こうして見学しに来た時には接待や手加減など露ほども見せず。


 全力で叩き潰すのが伝統になっているらしい。


 まったく、どうして俺たちが先代のせいで酷い目に遭わなきゃならんのか。

 そう呟いたら、お隣りから不正解だと言ってきたこいつは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


「なにが間違ってるって?」

「あ、あたしたちが去年すっぽかした回数、知ってる?」

「…………途中で数えるのやめた」

「ほら」


 確かに、百パーセント先代のせいにするのは良くないな。

 三パーセントほどは、俺たちのせいということにしておこう。


 ということで、大体九十七パーセントくらい先代のせいで。

 俺たちは、そんたく無しのガチバトルの中にその身をさらすことになっていた。



「にょー! 相変わらず、座ってるだけだよぼくたち!!」

「にゅ!」

「問題が難しいと手が出ないし、簡単だと早押しで負けるしね」


 多人数での早押しクイズ。

 拗音トリオがコテンパンなのはいつものこと。


 でも、一年生四人が。

 意外なことをしでかしていた。


「……うむ。最後まで問題を聞かずになぜ正解できる」


 開始から先、ずっと眉根を寄せっ放しの春姫ちゃん。

 おそらくどの問題にも正当できるであろう才女は。


 早押しクイズの何たるかを知らないらしく。

 俺の予想を裏切るように零点のままだ。


 そして、面白がってめちゃくちゃな答えを連発するであろうと思っていた凜々花は。

 俺の予想を裏切るように。


「おにい。これ、飽きた」


 そもそも面白がってすらいない様子。



 ……でも、この二人より。

 もっと意外なことをしでかしていたのが。



 じゃじゃん!


「では問題です! 通常の弦楽四重奏にチェロを」


 ピンポン!


「また押し勝ちましたか!? でもかなり問題文の途中だぞ! 解答を、どうぞ!」

「えっとぉ。……ヴィオラかなぁ?」

「せ、正解です……」


 正答数を表すプラスチックのコインを。

 はしゃぎながら中央の山から取る小石川さんと。


「では気を取り直して、問題です! 牛深うしぶかハイヤ節をルーツとする、北前船で」


 ピンポン!


「今度はこっちですか……。それでは解答をどうぞ」

「佐渡おけさ?」

「……………………正解です」


 すっかりお通夜ムードのクイズ研の面々を尻目に。

 ライバルは一人とばかりに小石川さんに追いすがる栗山さん。


 今日の部活見学は。

 すっかり二人だけのためにおぜん立てされたものとなっていた。


「ふ、二人の関係、なんだかドキドキで嬉しくなるね……」

「そんな気楽な感想で済む話じゃないと思うのですよ、秋乃さん」


 部室の隅。

 椅子に座ってみんなの様子をうかがっていた俺たちは。


 さっきから、片や目を丸くさせて。

 片や大はしゃぎでいたんだが。


「二人とも、お互いが好きだから本気で戦えるんだよね……」

「そうな。……でも、そんな関係がこれから変わっていくのかもしれん」

「どうして……?」

「だって栗山さんは友達がたくさん欲しいようだし。小石川さんは、栗山さん以外の友達が欲しく無いようだし」


 友達が欲しいから。

 小石川さんに友達候補を紹介し続ける栗山さんと。


 そんなみんなと栗山さんが仲良くなることだけを望んで、自らは離れようとする小石川さん。


 俺がたどり着いた答えについて、秋乃はとうの昔に気付いていたんだろう。

 そう思って口にした言葉は。



 ぶっぶー!



「ち、違う……、よ?」

「え?」


 タイミングよく押された不正解のブザーと共に。

 秋乃によって否定された。


「えっと……、何が違う?」

「こ、小石川さんは優しくて」

「うん」

「栗山さんは、ひたむき……」

「……うん?」


 もっとヒントが無いとわかりゃしない。

 俺は春姫ちゃんと同じように眉根を寄せていたんだが。



 じゃじゃん!



「では次の問題です! がまん強く辛抱すれば必ず成功することのたとえで、石……」

「はいっ!」


 ピンポピンポピンポン!


「うおい! はい! じゃねえ!」


 手をあげて椅子から立ち上がって。

 何の真似だよお前。


「あ……、その、一番早かったのはそこの見学者! 釈然としませんが、答えをどうぞ!」

「ペンギン!」

「うはははははははははははは!!! なんでやねん!」



 ぶっぶー!



 不正解のブザーを聞いて唖然とする秋乃。

 部室を満たす笑いの渦。


「さすがに今のは、『三年』が答えだろうが!」

「だ、だって、石の上でずっと我慢してる姿が可愛いペンギン、見た……」

「どこで?」

「夢で」

「うはははははははははははは!!!」


 もう、俺が謝るしかない。

 憮然とする秋乃を椅子に座らせて頭を下げつつ先を促す。


 まったく、せっかくの好勝負。

 水差しちゃ悪いだろ。



 じゃじゃん!



「では次の問題です! 北極圏最強と呼ばれる」

「はいはいっ!」


 ピンポピンポピンポン!


「だから邪魔すんなって!」

「まあまあ、良いでしょう。では先ほどの汚名を雪ぐ解答を、どうぞ!」

「ペンギン!」

「…………夢で見たの?」

「うん」

「いねえよ北極には!!!」

「いた」

「だからって最強ってことがあるか!」

「ああ見えて、えげつない炎を噴射した……」

「溶けるわ北極の氷!」


 俺が凜々花に期待してたことを。

 代わりにしでかすおばかさん。


 でも、勝負に関してさじを投げかけてたみんながすっかり楽しそうになって。

 それが狙いだったのか?



「お嬢さん、お手付きは三回までですから気を付けて! では次の問題です!」



 じゃじゃん!



「沖縄に生息する、空を飛べない」

「はいはいはいっ!」


 ピンポピンポピンポン!


「早いですね毎度! では解答を……」

「いや待ってくれ! まさかお前、またとんちんかんなこと言うんじゃねえだろうな!?」

「お、大真面目……」

「沖縄だぞ!? 分かってんだろうな!」

「もちろん」

「じゃあ答え言ってみろ!」

「ペンギン!」


 ぶっぶー!


 二度目までは楽しそうに笑っていた皆さんも。

 さすがに最後のには失笑だ。


「ああもう恥ずかしい! 北極ならワンチャン勘違いも可愛いが、沖縄だぞ!?」

「あたし見たもん!」

「ああそうだな! ほんとに見たんだよな、夢で!」

「去年見たの!」

「どこで!」

「美ら海水族館」

「うはははははははははははは!!!」


 どっと笑った一同だったが。

 俺を含めて、すぐに笑いを止める。


 だって。

 あそこって。


「いや待て! あそこはペンギンいないことで有名なんだウソつくな!」

「ウソじゃないよ?」

「いないもんどう見たって言うんだ!?」

「夢で」

「うはははははははははははは!!!」


 こいつはきっと、失格になっても邪魔しそうだ。


 俺は秋乃を伴って。

 廊下に出ることにした。

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