爽やかな空模様

第7話 爽やかな空模様①


 時刻は16時。

 太陽は傾き始め、とても過ごしやすい気温となった。

 中庭には爽やかなそよ風が吹く。


天空あまぞらくーん! はぁはぁ……待った……?」

「いや、さっき来たところ」

 僕は日照雨そばえさんが来たことを確認して文庫本に栞を挟んで閉じる。


「それデートでカップルがするお約束のやりとりじゃん……」

「もうデートでは動揺しないぞ」

「えぇー。また天空くんをいじれる何かを見つけないとなー」

「僕は君のおもちゃじゃないんだけど」

 ただ単に遊び相手が欲しくて選んだんじゃないだろうな……。

 その場合別に僕じゃなくてもいいか。


「それで昼休みに言ってたまだ話したいことって何?」

 早速本題に入る。

「あーそうそうそれそれ! 危うく忘れるところだったよ」

「いや……日照雨さんが一方的に呼び出したんだよね……」


「じゃあまず座って話さない?」


 僕と日照雨さんは校舎から死角となる大きな木の後ろに2人並んで腰を下ろす。

 そして、日照雨さんが口を開く。


「まず私の感情探しに天空くんが協力してくれることになったわけだけど、そのためには私と天空くんが多くの時間近くにいる必要があるよね」

「まぁ、そうだね」

 僕は相槌を打つ。

「そう! だからデート! 2人でどこかに出かけるんだよ。そうすれば多くの時間を近くで過ごせるし、一般的に言えば心が動く体験もいっぱいできると思うしね」


 一般的……ね。

 日照雨さんには一般的それがわからないからそういう言い回しをしたのだろう。


 日照雨さんの言っていることは理屈が通っているような気がした。


「なんだ。ただ僕とデートがしたいのかと思ったよ」

「なっっ! そ、そんなんじゃないよ! 私はごく真面目に言ってたの!」

 日照雨さんが顔を赤くしながら否定する。


「冗談だって。さっきの仕返し」

 ぷくぅと赤くなった頬を膨らます。

「むぅー……。天空くん冗談とか言えたんだ」

「さっきから君は一体僕を何だと思っているんだ」

「うーん……堅物?」

「堅物……ね……」


 俺はわざとらしく胡坐かいた太ももの上に肘を置き、頬杖をつく。


「あーそれめちゃくちゃ堅物っぽいよ」

「君のなかでの堅物のイメージ、定まって無くないか?」

「うん。テキトーに言った。えへへ」

 笑ってごまかしたってそうはいかないぞ。

 ジーと目線で訴える。


「ごめんって! 天空くんって本読んでるイメージしかなかったしさ、それに友達と話しているところあまり見たことないから……」

 日照雨さんは手をあたふたさせて釈明をする。


「まぁそれはあながち間違っていない。というか合ってるよ。それよりも僕のこと結構見てるんだな」

「あー……まぁそれはそうだね……。てか、それはいいじゃん。天空くんはどうして本読むの好きなの?」


 釈然としない反応。それに露骨に話題を変えた。

 何か触れられたくないことでもあるのだろうか。

 だったらこれ以上は踏み入らないでおこう。


「本は……好きだよ。情報がそれだけで完結しているし、本を読んでいる間は力が発動することもないしね」

 僕は目線を定めずに頬杖をついたまま答える。


「力は天空くんの意思とは関係なく発動するの?」


 日照雨さんは僕のほうに体の正面を向けて問う。

 律儀な人だな。


「僕はこれまで1度も力をコントロールできた試しはない。というよりはコントロールするのも止めたし、諦めた。ただでさえ情報が飽和しているなかに力のコントロールにまで脳のリソースを割けない」


 日照雨さんのほうを見る。

 何か言いたげな表情。


「わかってる。コントロールできたほうが後々助かるってことは。俺は原因療法じゃなくて、対症療法を選んだんだ」

「……」

 息を吸う音が小さく聞こえる。

 目を僕と合わせ、下げ、流す。

 何か言いたいことを口の中に閉じ込めているような気がした。


「言いたいこと、あるなら言っていいよ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る