第25話 いざ、ラーレン領へ2

 またこの夢だ。

 目の前の黒髪の男は何やら機械をいじっては机にドンドンと手を当てて騒いでいる。

 そして手に持っていた機械を机に打ち付けて、その機械の部品が飛び散った。

 そしてその様子に絶望した表情になりベットは飛びついて叫び始めた。


 なんだこの男は?

 まるで知能のない動物だ。

 同じ人間には思えない。


 叫び終えると再び立ち上がり、壊れた機械を確かめている。


「あぁ俺何やってんだろ……」


 男がそうぽつりと呟いた。 

 男は先程の行動を悔いているようだ。

 一時の感情で持ちものを壊すなんてまさに動物だ。



 「…るな」


 また何か呟いている。

 しかし小さすぎて何を言っているのかわからない。


 「見るな!!!」


 私と目が合った。

 おかしい、これは夢のはずだ。


 男はこちらへ手を伸ばしてくる。

 逃げなくては。

 これは夢だ。覚めろ、覚めろ、覚めろ……


「覚めろ!」


「ぶへっ」


 目が覚めると頭がジンジンする。

 どうやら何かに頭をぶつけたようだ。

 そして目の前に頭を押さえて倒れるフォーリンがいた。


「何してるんだ?」


「その、床がひんやり〜なんて?」


 誤魔化すのが下手か。

 どうやら俺が急に起き上がったところにちょうど頭をぶつけたみたいだ。


「まあいい、出発してからどれくらい経った?」


「3時間程度です」


 フォーリンは床で倒れたまま答えた。

 床にいても行儀が悪い為、隣に来るよう手招きした。


 まだそんなしか経っていないのか……


 こんなにゆっくりだと時間の流れまでゆっくりに感じる。


「だいぶうなされてましたけど大丈夫ですか?」


「あぁ少し気味の悪い夢を見た」


「そうだったんですか。ちなみにどんな夢だったんですか?」


「変な黒髪の男に追いかけられる夢だ」


「黒髪? 珍しいですね。もしかしたら悪魔が悪戯してるのかもしれませんよ」


 確かに黒髪は珍しい。

 ルディも髪の毛が黒っぽいが、茶髪だ。

 そういえば一度も黒髪を見たことがなかった。


「私が確かめてあげます。手を出してください」


 言われた通り手を差し出す。

 すると、フォーリンは私の手を両手で包み、目を瞑った。

 フォーリンの手はスベスベしていて気持ちいい。

 って私は何を考えているんだ。

 いかん、これもエイニの影響だろう。


 おい、エイニ。お前のせいで私の心に邪気が生まれた! どうしてくれる。


 おかしい。

 いつもなら茶化してくるエイニから返信がない。

 寝ているのか?

 いや、それはない。

 精神の中にいるときは眠気などは感じない。

 もしや居なくなったのか?

 ふん、別に居なくてもいいのだ。

 居なくて清清する。


「どうやら悪魔はいないようですね。よかったです」


「そうか……ありがとう」


「どうしました? 今度は少し寂しそうな顔をしていますが」


 こいつ、俺の表情の機微に気づきすぎだ。

 母上と同じレベルだ。

 女はみんなそうなのか?


「いや、うるさい奴が居なくなっただけだ。まあ、代わりのうるさい奴が目の前にいるがな」


「それって私のことですか!?」


「さあな」


「酷いです!もう怪我しても知りませんからね」



ーーー



 半日が経過した。

 窓の外も代わり映えの無い景色が広がるだけだったのが、外が暗くなり、全く見えなくなった。

 フォーリンも窓の外をつまらなそうに眺めている。

 そこで馬車が止まった。


「お客さん、今日はここで寝泊まりです。馬車の中なら安全なんで中にいてください。」


 夜は前が見えず馬を進ませられないからだろう。

 馬車内は発光石が光っている為真っ暗では無い。

 発光石とは注いだ魔力に応じて光る鉱石のことだ。

 とても便利かつ値段も安いため、冒険者は皆1人ひとつは持っている。


 夜といえば昔、父上に黙って夜に修行したことがあった。

 その時変なことがあったことを思い出した。


「フォーリン、昔話なんだが聞いてくれないか?」


「はい、いいですよ」


「昔、私は剣術の型をうまく使えなくて、夜な夜な練習をしていた時期があったんだ。

 その時は何の違和感も気づかなかったんだが、朝になると小動物が家の前で死んでたんだ。

 次の日も、またその次の日も修行していると何か感じて見に行くと死んだ小動物がいたんだ。

 これは怪しいと思い、私はそのまた次の日の夜、いつも小動物の死体を置く悪戯をするやつを懲らしめるべく待ち伏せをしていたんだ。

 そして案の定小動物が単独でやってきたんだ。

 しかし肝心の悪戯をする奴の姿が見えなかったんだ。

 つまり、死んだ小動物がひとりでに私の家の付近まで歩いてきたということがあってだな、今でも謎なんだ。フォーリンわかるか?」


 単純な疑問だったのだが、フォーリンはなぜか耳を押さえて震えていた。


「どうした?」


「どうしたじゃありませんよ! 夜に怖い話をしないでください!」


「済まない、怖がらせてしまったか? んでわかるか?」


「わかりませんよ! 死んだ生き物が動く魔法なんて知りません! レイク様、誰かに恨まれるようなことをしたんじゃないんですか!?」


「そうか……ではなんだったんだろうな。あれ」



ーーー



 私はあの話の後、眠れる時に眠ろうと思い、眠りについた。

 しかし、私の肩を揺らすやつがいて起きてしまった。

 そのやつというのがフォーリンだ。

 何やらモジモジしている。


「どうした?」


「あのですね……ちょっとトイレに行きたいのですが、魔物に襲われるのも嫌なので、その、ついてきては来れませんか?」


「無理だ、寝る」


「ちょっと! もう限界近いんです。お願いします!」


「そのローブは魔物避けがあるんじゃなかったか?」


「すみません、嘘つきました。怖いんです!ついてきてください!」


 フォーリンに連れられ、馬車から20メートルほど離れた場所にいる。


「その、音聞かれるのが恥ずかしいので、耳を塞いであーって言ってもらってもいいですか?」


 注文の多いやつだ。

 仕方ない。

 俺の話が怖かったのが原因みたいだからな。


 近くに尿を出しているフォーリンがいる。

 駄目だ。

 想像するな。

 だが、想像するなと思うたびに想像してしまう。

 やめろ、私はこんな人間じゃない!

 これもエイニの……


「すみません。ありがとうございました」


 スッキリした顔でこっちを見てくる。

 人の気も知らないでのんきな奴だ。


 次の日も昨日と引き続き馬車に揺られる旅が始まった。

 そして6時間ぐらい経った頃、ようやく最初の目的地、ラーレン領に着いた。

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