19 絆

「その、『キリナ』さんというのはもしかして、セイヤさまの?」


 と、窺うように訊いてくるエスティカ。


「ん? まぁ、その……なんていうか。ちゃんと告白したわけじゃないんだが、恋人ってことでいいんだよな?」


『私に聞かれても困ります。交際の段取りのことはともかくとして、深い絆で結ばれていることはたしかですね。』


「そうだな。実を言うと、感じるんだ」


『何をです?』


「キリナの存在を。正確には精神波だな。かすかだが、つながってる気がする」


『ほう。それは興味深いですね。火星とはすくなくとも一万光年の距離があるはずですが。量子もつれのような現象なのでしょうか?』


「そ、そうなのですね……だとすると、私はもっと慎みを持たないと……残念ですが……」


「エスティカ?」


「い、いえ! なんでもありません!」


 エスティカが、あわてたように首を振った。

 頬がわずかに紅潮してるのを、改良人間である俺の目は見逃さない。


 だが、


 ……よくわからん反応だな。

 嫌われてはないようだが。


 いくら精神波が読めるといっても、戦闘以外での精度は高くない。

 戦場における感情は、極端な分わかりやすい。

 俺にとっては、ありふれた日常での、すこし込み入った感情のほうがわかりにくいのだ。


「じゃあ、すまないが、リミッターのほうはよろしく頼む。秘術をかけるには、シリンダーを全部出さないといけないか?」


「近くにあれば大丈夫です。そうですね、差し支えなければコクピットを使わせてもらえれば」


「そうだな。それが効率的だし、安全でもあるか。って、ツルギが動かせるようになったとして、エスティカをどうするかだな。コクピットは単座だし」


『複座にすることはできますよ。ツルギのベースとなった量産機はもともと複座なので、スペースはあります。シートも、一晩もらえれば自動修復装置を利用して作成できるでしょう。』


「おまえもたいがい万能だよな」


『ツルギは、単独で宇宙を渡り、敵基地を強襲するという狂ったコンセプトで設計されていますからね。戦闘以外にも、広義の継戦能力を維持するために、長期間の自給自足が可能なようになってます。』


「す、すごいのですね……。そういえば、セイヤさまの食糧は?」


『レーションなら数年分は生成できますよ。エスティカさんの食糧はバギーでしたか?』


「……はい。転倒した時にダメになってしまいました……」


『では、セイヤと同じものをさしあげましょう。腕によりをかけて作りますよ。味は保証しませんが。』


「本っっ当、それだけはなんとかしてほしいんだけどな……」


「あ、おいしくはないんですね……」


 クシナダ以外のテンションが微妙に下がる。

 ともあれ、行動方針は決まったな。

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