第31話 新たな使命(1)

 

「うーーーん、昨日は楽しかったな~」

「おはようございます、ご主人様」


 翌日。

 ベッドから起き上がり、背を伸ばしながら充実した昨日の午後を思い返して頬が緩む。

 昨日はヴォルティス様に、簡単だけどたくさん魔法を教わった。

 [ステータス]や[鑑定]の他に[広範囲治癒]、[強化結界]、[探索]、シロが使える[索敵]も。


「おはようございますにゃん、あるじ様! 今日のご予定はどうするんにゃん?」

「西や東の町に結界を修繕しに行くつもりよ。そのあとはヴォルティス様に昨日の続きを教わるの」

「かしこまりましたにゃん!」


 ベルに服を着せてもらい、二人と共にヴォルティス様のお部屋に向かう。

 階段を降りた時、ひらりと白い小鳥がどこからともなく舞い降りて、手紙を二通、私の手元に置いていく。

 一通は王家の紋章。

 もう一通はルイーナの家の紋章。つまりルイーナからの手紙だわ。


「なにかしら」

「お食事のあとに目を通された方がいいかもしれませんね」

「そうね」


 扉を開き、いつものようにカウンターの内側にいるヴォルティス様へ「おはようございます」と声をかける。

 そっけなく「ああ、おはよう」と返されるけれど、その手元から漂うのはトマトの匂い……!


「ま、まあ、ミネストローネですか……!」

「パンはブールとクロワッサン。どちらも焼き立てだ」

「くっ!」


 本日も抗い難し!


「太ってしまいそうですわ」

「お前はもう少し太った方がいい」

「え、えっと、ヴォルティス様は太った娘の方が、お好きなのですか……?」

「そうだな、贅肉というくらいだ。贅沢をしてたくさん太るというのは、その者がある程度幸せである証にはなるだろう。太い方がいいと思うぞ」

「!」


 なんと。

 ヴォルティス様はお太めな女性が好みなのね。

 ……それではクロワッサンをもうひとついただくのは、悪いことではないということかしら。

 くっ、ブールとミネストローネも相性がいい!

 いくらでも入る!

 ミネストローネは普通に飲んでも美味!


「ところで手紙が来たのか?」

「はい。こちらで読んでから出かけてもよろしいでしょうか?」

「構わん」


 まずは王家の手紙の方が気になる。

 封蝋を外して手紙を開くと、内容は昨日の結界修復に関するお礼と、やんごとないアホが私に会おうと迫ったことへの謝罪。

 そして、王族の寝所に入ったことは不問——なかったこととするように頼む、とのこと。

 はい、胸に秘めて墓まで持っていきまーす。

 とはいえ、王族の寝所で見たあの天井画は忘れ難いものがある。

 昨日忘れないようにと描き起こしておいたが、あの魔法陣……もしかしたら、ヴォルティス様の封印を解く鍵になるかもしれない。

 このままこの場所に縛られ、ずっとお独りなんて寂しすぎる。

 封印を解くに至らずとも、せめて移動できるようにならないだろうか。

 私とて学園で魔法は学んでいる。

 論文だって書いた。

 解析してみることくらい、できるはず。


「そちらは?」

「あ、こちらは親友からです」


 そうだった。

 ヴォルティス様が興味深そうに見ていたのは、ルイーナからの手紙。

 なんの用かしら?

 ちょっとだけワクワクしながら開いて読むと。


「まあ……」

「どうした?」

「今日行く予定の東の町なのですが、数日前に近隣の村々が魔物に襲われて壊滅状態……その上、度重なった飢饉と竜巻きの多発がとどめになり、町には難民となった民が多く押し寄せててんてこまいになっているようです」


 国からも騎士団と魔法師団が派遣され、状況の改善を試みているようだが竜巻きが数時間置きに発生し、難民の保護もままならない。

 なんということ……。

 ルイーナの実家は東の町の郊外にあるため、「この状況ではレイシェアラ様をお茶会にお招きするのは難しく、今しばらくお時間をいただきたい」と締め括られていた。

 私——聖女に助けを乞いたいが、国中が同じような状況なのにそんなことはできない——と、暗に語っている。

 真面目なルイーナらしい。


「ふむ……大気中の魔力が不安定なのだろう」

「どうしたらよいでしょうか」

「結界の修繕はもちろんだが、魔力調整を行う魔物が減少しすぎたのだろう。人間には区別がつかないからな」

「えっ」


 魔物!?

 驚いてしまったけれど、魔力の吹き溜まりから発生した瘴気により生まれる魔物とは別に、ヴォルティス様のいるこの塔——竜の塔の溢れる魔力から発生する魔物は別物。

 時折竜の塔から生まれるその魔物は、国中に散布して各々縄張りを作り、その縄張り内の魔力を調整、安定させるらしい。

 しかし、魔力不足に陥って魔物統合が起こり、魔力調整を行える魔物は全部死んでしまった、と……。


「ど、どうしたらよいのでしょうか!」

「晶霊を召喚して連れていくといい。晶霊を置いておけば、いずれ晶霊獣となり自然発生の調整魔物と変わらぬ働きをするようになる」

「!」


 そういえばクラインを見た村の人も、大きな狼の魔物だと勘違いしていた。

 そうか、本当に魔物と区別がつかなくて、討伐されたりするのね……!

 そんな重要な役割がある魔物がいるのも知らなかったし。


「……。なるほど、私の新たな使命がわかりました」

「?」

「いえ、ヴォルティス様! 私、頑張って結界修復と調整魔物を東の町に置いて参りますわ! 晶霊の召喚の許可を!」

「ああ、好きなだけ召喚して持っていくがいい」

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