派手だから

 実家の離れに着いてしまった。

 姉と楽しくお喋りもなく、ただ無言で。

「さ、入りましょ」

 ああ……とも言えない。

 この場所に来るのは数年ぶりだった。

 それでもすれ違う人間は皆、その姉弟を見る。

 そして、思う。

 美しさ……そして、怖さ。

 この藤川の家に生まれた者だと――。

 姉よりも弟、それはこの家を継ぐ者だったからだ。

「じゃあ、ここで一旦別れましょ」

 姉の提案に春成は素直に従った。

 いつまでも一緒に居ることは春成にとっても嫌だった。

 離れだとしてもこの奥に来れるのは限られた者だけ。

 さて、何をするかと辺りを見回しても何もない。

 ここはそういう場所だった。

 自分の部屋ももうない今、思うはこの廊下に現れないかということだけで、この後の事についてはもう考えがあった。

 気晴らしに窓を開けてみれば、青空が広がっている。

 昼間になれば誰か来るのか……。

 ここに居ると思い出す。

 遠くもない過去の事を――。


 小さい頃からだったろうか、春成は誰に似たのか派手だった。

 その派手さは遊び人だからというわけではなく、陽の気を多く含み、人より華があるからだった。

 人目に付くのは良くない。

 それは藤川の家にあってはならぬことだった。

 藤川の家は代々上忍の忍びを祖としている。そこから何故か霊感の強い人の血だかが入って来たり、商いに強い家の血が入って来たりといろいろと混ざり合って、どんどん凄くなって行ってしまったが、何はともあれ、その忍びの血を一番大事にしていた。

 それこそが今日こんにちまで生きて来れた証だったから。

 その藤川の家の近くに居を構える樋裏日々季ひうらひびきが生まれた樋裏の家とは代々の付き合いで樋裏の家もまた忍びを祖としている。

 だが、樋裏の家よりも藤川の家の方がいつも上の立場にいた。

 それは今日でも変わらない。

 それに樋裏の家は全く不満を持っておらず、当たり前のように感じていた。

 だから、春成と同い年の日々季も春成を上司のように心得て思うのは必然だった。


 ある時、母は足を止めて、秋恒の稽古をする姿を見ていた。

 だが、その目はとても嬉しそうなものではなかった。

「忍びなど今はない。けれど、その素質は誰が見ても秋恒よりも春成の方が遥かに全てにおいて上回っているのに!」

 口惜しそうに秋恒を見続ける。

 秋恒には絶対に届かないその声を聞いてしまった時、春成は咄嗟に物陰に隠れた。

 誰が聞いていようか――というその思いは感じずとも感じられた。

「あの子にはないのに、春成は霊感もあるなんて……! それは私の方の血でしょうに――」

 歯ぎしりしそうな勢いだった。

 嫉妬だろうか。

 秋恒にはないものばかりを自分は持っている。

 それに引け目はなかった。

 姉である夏羽にもその霊感はある。

 ただ春成と違って、霊を斬ったりはしないが見れるというだけだった。

 母さんもそうだろう――と春成は思う。

 静かに様子を窺い、誰も居なくなってからさらに思う。

 母さんは俺のように前世が見れないじゃないか! 俺は違う。見えるんだ! 母さんの言う忍びの時代に俺は大恋愛をしている! だから探し出してみせる! 絶対にその子を! 是が非でも――。

 それは強い意志、子供の頃の記憶。

 何を思ってか、あらぬ方向に話が飛んでしまう所は計算か天然か。

 春成はそこから動き出した。

 久方ぶりの友人である日々季に出会い、事情を話すと笑われた。

 それは面白い! と。

 そして、その話の流れから、それだと私はこの藤川の家には似つかわしくないですね……という春成の口火から、あれよあれよという間に藤川の次期当主は長男である春成から大人しい霊感のない次男おとうとの秋恒に当主の座を譲る――となるのは至極当然、狙った獲物を捕まえたのと同じ事であった。

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