Report41. 心
エルト城内にある玉座の間──
不敵な笑みを浮かべる
その時、イサミの脳内にとある人物の声が響いてきた。
『イサミ!俺だ、羽倉だ!』
『……!羽倉殿!?』
『今お前の目の前にいるそいつは、お前を作ったマスターじゃねえ!顔は全く同じだが、そいつは日比谷 恭二の兄、日比谷 誠一だ!』
『マスターの兄上ですって?』
『ああそうだ。お前の本物のマスターは今俺の隣にいるから安心してくれ。』
『そうですか……しかし何故マスターの兄上がこの世界にいるのです?』
『詳しいことはわからねぇ。だが、こっちの世界の日比谷 誠一は半年前に起きたAIの暴走事故で死んだ。奴自身が言っていたように、その時に異世界に来たんだろうな。』
『なるほど。ありがとうございます羽倉殿。それが分かっただけで十分です。これ以上被害を出さないように速やかに排除します。』
「誰が、誰を排除するって?」
『!?』
王は氷のような冷たい声で、イサミに問いかける。
『馬鹿な…!この通信を聞いていたとでもいうのか……?』
「質問に答えよイサミ。誰が誰を排除するのだ?」
「貴様……聞いていたのか?今の会話のやり取りを。」
「ふむ、質問を質問で返すのはいささか無礼だと思うが、良いだろう答えてやる。
今の一連のやり取りは、一部始終盗聴させてもらった。だからもう、お前は私の正体を知っている、そうだろう?」
「本当に、マスターの……兄上なんだな?」
「そうだ、私はお前を作った日比谷恭二の兄だ。不本意ではあるがな。」
「……!マスターの兄上であるあなたが、どうして!」
感情的になるイサミを見た王は、残念そうな表情で小さくため息を吐いた。
「ロボットの分際で、ずいぶんと感情的に喋るじゃないか。」
「……なんだと?」
「そう怒るなよ。結局はその怒りも、人工的に作られた膨大な感情パターンの一つに過ぎないのだ。」
「………。」
「お前が感じる喜び、悲しみ、そして怒り。お前が『感情』だと認識していたもの全てが作り物なのだと言っている。」
「……そんなことは初めからとうに分かっている。だが、俺はそれでもこの自分の中に芽生えた何かを大切にしたいと思っている。例えそれが人工的に作られたものだとしてもな。」
「……それがお前の答えかイサミ。正直言ってがっかりもいい所だ。AIロボットが、感情なんざを手にした所で何になる?ただ、弱くなるだけさ。」
「弱くなるだけ…だと?」
「そうさ。なまじ感情があるからこそ、人は迷い、苦しみ、妬み、絶望の底に沈んでいく。この私のようにな。」
「貴様が言っているのは、感情の負の部分にしか過ぎない。感情はプラスに作用する場合だってある。貴様も研究者と言うのなら、ものごとを客観的に捉えることだな。」
イサミの指摘に、王はククッと笑う。
「まさかAIロボットに皮肉られるとはね。だが残念ながら、今の私は研究者などではない。目的の為なら手段は
「『魔王』とでも、言っておこうか。」
魔王は邪悪な笑みを浮かべ、今度は右手を倒れているメアリーの方へと向ける。
「……!メアリーッ!」
虚をつかれたイサミは、すぐさま王とメアリーの間に割って入った。
「ふっ…根本的に甘いな、イサミ。
王の右手から、稲妻のような軌道を描く光線が放たれる。
「なっ…?」
ドシュッ!
イサミはその場から一歩も動くことが出来ず、左胸はその光線に貫かれた。
そこは、グローアップ・デバイスが埋め込まれていた場所。
感情を司る、『心』があった場所。
「か…はっ……。」
『心』が壊れてしまったイサミは、意識をも失い、その場に倒れてしまうのであった。
「イサミーーーッ!」
一人残されたソニアはエルステラを懸命に庇いながら、悲痛な叫び声をあげる。
「イサミは後に回収しよう。まずはソニア、お前からだ。」
王の右手は、再びソニアの方へと向いた。
「チェックメイトだ、お姫様。グリード……」
王がねっとりとした声で、吸引呪文を唱えようとしたその時──
ブーーーーッ!ブーーーーッ!
緊急事態を告げるブザーが、けたたましく玉座の間に響き渡る。
『緊急事態発生。グローアップ・デバイスの損傷を確認。緊急事態発生。グローアップ・デバイスの損傷を確認。』
「なんだ…?」
王は、ブザー音と電子アナウンスが繰り返し鳴り響く場所を探す。
その場所はすぐに特定できた。
ブザー音は倒れ伏しているはずのイサミから発せられていた。
「一体、奴の身に何が起きている……?」
意識を失ったイサミは、ブザー音を発しながら糸で吊られた人形のように、ゆらりと立ち上がる。
「
王は再び、イサミに向かって光線を放つ。
しかし、そのビームはイサミの側頭部をかすめ後方の壁を貫くだけであった。
「馬鹿な…。頭部を確実に捕らえたはず。」
自身の魔法が外れたことに動揺する王。
それに対して、イサミの目はギラリと赤く輝き、骨格を形成する金属フレームは、外皮を突き破っておよそ人間とは程遠い形状へと変化する。
ついには四つん這いになり、まるで飢えた野獣のような捕食者の姿へと成り果てるのであった。
『殲滅対象を補足。ただ今より、
繰り返す。ただ今より、
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