Report36. 圧倒

「クククッ……力がみなぎる……!コアの内側から魔力が止めどなく溢れ出るのを感じる!ああ…これが魔晶石の力……!実に、実に素晴らしい…!」


ランドルフは両腕を大きく広げ、うっとりとした表情で自分の力に酔いしれていた。


そんなランドルフから危険な信号をキャッチしたイサミはすぐさま距離を詰め、攻撃を仕掛ける。


「はぁっ!」


イサミは機動力を奪うため、ランドルフの脚を目掛けローキックを放つ。


スカッ


確実に入ったかに思われたその蹴りは、手応えなく、虚しく空を切る。

その後、イサミの目の前にいたランドルフは煙のように消えてしまうのであった。


「どこを見ているイサミ。ワシはここじゃよ。」


イサミはすぐさま背後から聞こえる声の方へと振り向く。


そこには余裕の笑みを浮かべたランドルフがイサミのすぐ側に立っていた。


「シッ!」


間髪を入れず、イサミは回し蹴りをランドルフの側頭部に叩き込む。しかし──


ブンッ


これも手応えなく、空振りに終わってしまうのであった。


「どうした?ワシはここじゃよ。」


「いや、ここじゃよ。」


「どこを見ている?イサミよ?」


次々と増殖するランドルフの幻影。

いつの間にかイサミの周りには、11人のランドルフが取り囲んでいるのであった。


「これは…いったいなんなんだ……?」


困惑するイサミに、ある一人のランドルフが愉快そうに話し始める。


「ワシの得意とする魔法分野は幻影術。相手の目や心を欺き、混乱に陥れる魔法よ。以前のワシであれば、せいぜい3体出すのが精一杯であったが、よもやこれだけ精巧な幻影ファントムが10体も作り出せるとはな……流石魔晶石の力よ。」


「そうか。」


満足気に話すランドルフに対して、イサミは興味なさそうに再び戦闘態勢を取る。


「ほう。この人数相手に、まだ素手で戦おうというのかね?」


「10体はお前自身が作り出した幻影なんだろう?なら本物だけを叩けば良いわけだ。」


「やれやれ……なんとも哀れだなイサミよ。まだ自分の状況が把握できていないらしい。そうなる前にお前は消し炭になるんだよ。」


11人のランドルフは一斉に、イサミに向け魔法を放つ態勢に入る。


「この11火炎球フランバルに焼かれてな。ちなみにこの魔法は、幻影などではないぞ?」


「やってみろランドルフ。お前が俺を焼くのが先か、俺がお前を殴るのが先か、勝負だ。」


「ほざけぇっ!火炎球フランバル!」


挑発するイサミに、11人のランドルフは一斉に火炎球を発射する。


それを見たイサミは、懐にしまっていた魔力貯蔵箱マジカルバンカーを瞬時に取り出す。


「……次元障壁ディメンション・シルト!」


イサミは火炎球フランバル発射に合わせ、小さな魔法障壁を自身の周りに何個も展開する。


「馬鹿め!そんなチャチな壁でワシの火炎球フランバルを止めれると思うなよ!」


勝ち誇るランドルフを無視して、イサミは集中力を高める。


『止めようだなんて思っちゃいない……。』


イサミの狙いは同時に放たれた火炎球を、展開した障壁によって着弾のタイミングをことにあった。


『一番最初に到達するのは…左前方から来る球…次は右から……次は背後から……それから次は……」


イサミの脳内では、火炎球の着弾予測計算が目まぐるしい勢いで行われていた。そして──


「見えた!1!」


最初の火炎球を、手に持った魔力貯蔵箱マジカルバンカーで吸収。


「2、3、4、5、6!」


四方八方に素早く腕を伸ばし、次々と襲いかかる火炎球をイサミは次々と吸収していく。


「7、8、9、10、11!……よし、これで全部だな。」


そして、ついに全ての火炎球を吸収することに成功するのであった。


「馬鹿な!まさか貴様……!小さな障壁をランダムに展開することで、着弾のタイミングをズラしたのか!?」


「ランダムなどではない。一個一個の障壁の強度、位置、全て計算済みだ。面食らっている所悪いが……ケリをつけさせてもらうぞ。」


「はっ!?」


ランドルフの視界からイサミの姿が消える。


その次の瞬間──


のランドルフの目の前には、今にも殴りかからんとするイサミの姿があった。


「なっ、なぜわかる!?」


?なるほど、こいつが本物で間違いなさそうだな。そして、お前にその答えを教えるつもりもない。二度と、俺たちの前に現れるな。」


「ちょ…待て!ワシの話を───」


「日比谷流百式奥義其の八、電光鉄華でんこうてっか。」


バキィッ!!!


イサミの重い拳がランドルフの顔面に直撃。

顔の骨が砕ける音ともに、ランドルフの身体が吹っ飛んだ。


ドゴン!


「ガ…フ……。」


そしてそのまま身体は玉座の間の壁にめり込み、ランドルフはついに気を失ってしまうのであった。


「よし……。これで全て片付いた。ソニア!エルステラの容態はどうだ?」


イサミは、エルステラの介抱に当たっていたソニアに声をかける。


「何とか一命は取り留めた…取り留めたんじゃが……エルステラの意識が戻らないんじゃ!くそっ!どうして!もう身体はなんともないはずなのに!」


ソニアは目に涙を溜め、悔しそうに拳を床に叩きつけた。



その直後──



不意に冷徹な声が玉座の間に響き渡る。


「エルステラを撃った弾丸には、私の開発した呪いが込められている。ただの回復魔法では目を覚まさんよ。」


その声の後、イサミとソニアの間に次元の穴が突如として開いた。


そしてその中からは、ディストリア帝国のトップであるワンがゆっくりとその姿を表すのであった。

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