Report27. MODE-Fighter
「あそこら辺で、ドンパチやっているようだな…。ふむ…では、そこに乱入するとしようか。」
次なる戦場を見つけたガーレンはニタリと笑う。
そしてそこへ向かって走り出そうとしたその時、ガーレンの目の前に一つの黒い影が現れる。
「ぬうっ!?
一瞬だけ
「日比谷流百式奥義、其の三十二。
影はガーレンの巨大な身体の懐に飛び込み、右の拳を腹に思い切り叩きこんだ。
ドスンッ!
「ぐっ…ふぅ…」
ガーレンは悶絶し、膝をつきそうになるのをやっとの思いで堪えた。
突如襲ってきた人物の正体を捉えようとキョロキョロと辺りを見回すが、その姿はどこにも見当たらない。
「上だ、
何者かの声に反応してガーレンは思わず上を見上げてしまう。
その目に映った光景は、間近に迫る『
「日比谷流百式奥義其の四十二、
強烈な踵落としが炸裂し、ガーレンの顔面に振り落とされた踵が思い切りめり込む。
「がはぁっ……」
ガーレンの鼻からは血が吹き出し、後ろに大きく仰け反る。
そしてついに、
ドスーーーーーーーン!!
大きな音を立てながら、背中から倒れ込んでしまうのであった。
それを少し遠巻きに見ていたディストリア兵たちの間に動揺が走る。
「嘘…だろ?ガーレン様が倒れた…?国一番の力を誇るガーレン様がやられちまったあ!」
「う…
「か…加勢しに行った方がいいのか?」
「馬鹿野郎!戦いの邪魔をすると、俺らもタダじゃ済まないぞ!」
ディストリア兵たちは想定外の事態に完全に混乱しきっていた。
「
ガーレンは倒れたまま、ディストリア兵たちに喝を入れる。
それを聞いたディストリア兵たちは肩をビクッと震わせ、それ以上言葉を発することはなかった。
そして、何事もなかったかのようにガーレンはムクリと起き上がり、改めて自分を襲ってきた人物の姿を捉える。
「ほう…イサミ。お主、生きておったのか。」
そう言ったガーレンは嬉しそうに笑った。
目の前には、黒いラバースーツだけを身にまとったイサミが仁王立ちをしているのであった。
「大切な国と人を守るため、俺はここで死ぬ訳にはいかないんだ。そして何より、お前のような危険な男を放っておく訳にはいかない。少々手荒にはなるが、全力でいかせてもらうぞ。」
イサミは接近戦に備え、迎撃の構えを取った。
「フン…全力で、か。今まで付けていた大層な武器や鎧はどうした?まさか、その身一つでワシと渡り合おうと言う訳か?」
ガーレンの問いにイサミは静かに頷く。
「ああ、全て置いてきた。鎧を付けていると動きが重くなり、駆動区域が狭くなるからな。今の俺はそれらを取っ払い、完全に開放された状態になった。
その名も
「ハッ…何をごちゃごちゃ言うとるのかわからんが、拳闘を極めたワシとガチンコで殴り合おうと言う訳か、良い度胸だ。」
「本当は遠距離で終わらそうと思ったが、見積もりが甘かったよ。再演算した結果、このスタイルで戦った方が勝率が高かったんだ。」
「ほう…ワシに勝つつもりでいると?ちなみに貴様が計算したワシに勝てる確率とやらは、どれくらいなのだ?」
「99.8%の確率で俺の勝ちだ。よほど想定外のことが無い限り、お前に勝ち目はない。」
そのイサミの言葉で、ガーレンの堪忍袋の緒が切れた。
ガーレンはいきなり真っ赤に染まった両拳を振り上げて、先程の連打をイサミに浴びせ始める。
「ワシを愚弄するんじゃあない!!こいつでまた吹き飛ばしてくれるわ!剛拳流星群!!」
「……遅い。」
次から次へと襲いくる拳の隙間を、イサミはするりするりとかいくぐり、再びガーレンの懐に潜り込んだ。
「連打なら、俺にもとっておきのものがある。日比谷流百式奥義其の五十一。
イサミは重い一撃を腹に叩き込む。
「ぐはっ……」
ガーレンは膝から崩れ落ちそうになったが、イサミは容赦なく次の拳を食らわせる。
二発、三発、四発。少しずつ拳を繰り出す速度を上げるイサミに対して、ガーレンの拳は完全に止まってしまうのであった。
一発もらう度に、ガーレンは口から空気を吐き出し、苦痛に顔を歪めた。
『こ…こやつ…!人体の急所を確実に狙ってきておる…!それだけではない!こやつ…なぜ……』
イサミの連打は止まらない。
それどころかもう一段ギアを上げ、拳の繰り出す速度は常人では見えないレベルにまで上がっていく。
『なぜ、息切れひとつ起こさぬのだ!?』
「がはぁっ……」
烈火の如く繰り出される拳を前にガーレンは為す術なく吹っ飛ばされ、再び背中を地面につけてしまうのであった。
悶絶するガーレンに対して、イサミは汗ひとつかくことはなく、至って冷静な表情で大の字に倒れる巨大な老人を見下ろした。
「これで2度目のダウンだ。まだ続けるか?俺としては、これ以上お前とは戦いたくない。降参してくれると、ありがたいんだがな。」
ガーレンは倒れたまま悔しそうに歯ぎしりし、イサミを睨みつける。
そしてディストリア帝国の戦艦、ライオネルのブリッジからその戦いを見つめていたハリルもまた、苦々しい表情を浮かべていた。
「まさか…あのガーレンがあそこまで一方的にやられるとはな……何者だ、あの男?」
少し考えた後、ハリルは近くにいる兵士に声をかける。
「おい、そこのお前。僕はこれから戦場に降りる。ライオネルの留守を頼んだぞ。」
「えっ…?指揮官直々に戦場に向かわれるのですか!?」
ハリルの思わぬ行動に、指名された兵士は驚きの声を上げた。
「少しばかり状況が良くない。しかも、エルト王国兵の防戦一方の戦い方……どこか違和感を感じる。色々と確かめる必要があるから降りるのだ。」
「……わかりました。では、お気をつけて行ってきて下さい。」
兵士はハリルに向かってディストリア式の敬礼を行う。
「おいおい…僕を誰だと思ってるんだよ。五龍星がひとり、『
ハリルは自信満々に不敵な笑みを浮かべながら、ブリッジを後にするのであった。
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